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真・菊地探偵事務所 二章 2

2 初めの一歩

「とにかく、これはあまり弄らない方が良い。適当な場所に捨ててこよう」
「捨てちゃうの、真ちゃん?」
「当然だよ。これが本当に物騒な物なら、所持してるだけでも危ない。だからって住所も書かれてない差し出し人に突っ返すのも無理だしね」
 小包に貼られていた紙には、ただ差し出し人の名前らしきプティーブンの文字だけしか書かれていない。となるとこのプティーブンとやらを探し出して丁寧に手渡す労力を思えば、どこか目立たなそうな場所に捨てるのがベストだ。それが見つからなければなお良い。
「そうだな、環境汚染は気になるけど、海にでも沈めてしまおう」
「勿体無い気もするね……」
「取って置いたって何の役にも立たないよ」
 真はGUMPを手に取り、外出の準備を始める。
 上着を羽織り、帽子をかぶるだけだが、装いを整えるだけで気分は断然違う。
「ついでに、このプティーブンって人にも探りを入れてみよう。……どこかで聞いたような名前だしね」
「やっぱり知り合いなんじゃないの?」
「いや、こんなユニークな名前の友達はいなかったはずだよ」
「忘れてるだけだったり……」
「食い下がるね、雪歩。そう言う君には思い当たる節でもあるの?」
「思い当たる節と言うか……」
 ドアに向けて歩き始める真について、雪歩も隣に並ぶ。
「もしかしたら依頼だったんじゃないかな、って」
「変わった手口だね。ボクももっとクライアントについて勉強しないと。小包を置いて逃げ出すのが依頼の方法って言うのは初めて聞いた」
「でも、何か理由があって、それだけを置いて身を隠す理由があったのかも」
「例えば?」
 真がドアを開け、廊下に出る際に雪歩に振り返る。
 すると雪歩はどうやら外を指差している様だった。
「私が帰って来る時、変に思ったんですけど」
「ん?」
「廊下が随分荒らされてるんですぅ」
 雑居ビルの三階にある菊地探偵事務所。
 事務所のドアを開けると、ビルの廊下に出る事になっている。
 廊下は左右に伸び、それに沿って部屋が四部屋ほどあるのだが……。
「雪歩、こう言う重要な事はもっと早く言って欲しいな」
 真が知っている廊下は、もっと飾り気のない、真っ白な壁をしていたはずだ。
 だが、今見てみると、所々黒く焦げたり、壁が抉れて鉄筋が見えたりしていた。窓も所々割れていたりするし、他の入居者が廊下に置いていた荷物にも少なからず被害が及んでいる。
「だって、真ちゃんはずっと事務所にいたんだから、何か知ってるんじゃないかと思って」
「……ボクだって居眠りぐらいするよ。でも……」
 それにしても、真が居眠りしている短時間で、ここまで廊下を荒らせるものだろうか?
 かなり大掛かりな事をしないと、ここまで破壊は出来そうにないが……。
「そんなに長い事寝てたかな……」
「疲れてるんじゃない? 今度、ハーブティーでも淹れようか」
「それほど頑張って仕事をした覚えもないけど……でも、これは気になるね」
 明らかな事件性、とはまだ言えない。単なるイタズラの可能性も無いでは無い。
 だとするとこの手の込み様、イタズラのターゲットにされた人物は、相当嫌われているんだな、と言わざるを得ない。
「まぁ、この件はビルの管理人に報告しておくとして、この銃との関連性はどうかな」
「無きにしもあらず、って事はないかな?」
「ボクはどちらかと言うと、最近の不可解な事件の方が関わってると思うね」
 近頃、良く報道される不思議な事件。
 食人鬼の仕業か! と大見出しが出された、一家惨殺事件。
 ガス爆発かと思われた、繁華街での大爆発事故。
 その両方とも、犯人も原因も判明していない上、その他にも奇妙な事件は幾つも起きている。
 公園で起きた殺人事件はどうやら大型の獣に襲われた様だが、公園は町の中にあったし、そんな獣がうろつくような場所ではなかった。
 学校が一夜にして凍結する事件もあったが、どう考えても常識の範囲を超えている。
 更に噂を聞く限り、妙な世界に迷いこんだ、と言う証言もいくつか上がっている。
 ここ最近、この町はおかしい事だらけなのだ。
 そんな頻発する事件に対して、警察はすごくピリピリしており、誰かが銃を所持していた、なんてバレたら、ストレス発散に即逮捕されてしまうかもしれない。
「このイタズラも同一犯か、同じ手口を使った模倣犯か」
「そんなに大勢の人が、こんな事出来るかなぁ?」
「どうかな。ボクにも良くわからないよ。ただ言える事は、そんな物騒な世の中で、妙な銃を持っているボクらは怪しまれる要素がある。だから、早くこれを捨てに行こうって事」
「その銃も警察に届けた方が良いんじゃない?」
「冗談。事情聴取って名目で、一晩は警察署に缶詰にされちゃうよ。そんなのゴメンだね」
 疑わしきは罰する、とまではいかないものの、不思議な事件が頻発する最中に不思議なアイテムを持っている人間は、それ相応に情報を搾り取られるだろう。
 そんな面倒ごとを省く為にも、真は妙な銃を捨てに行こうと提案したのだ。
 警察とも良い関係を築きたい職業ではあるし、こんな所で詰まらない波紋を起こす必要はない。
「さて、考察はここまで。そろそろ足を動かそう」
「うん……でも待って」
 真が汚れた廊下を歩き出そうとした時、また雪歩が前方を指差した。
 その先を見ると、子供が二人、こちらを見ている。
「さっきから気になってたんだけど……あの子達、こっちをずっと見てるの」
「雪歩、そう言う事は早く……」
「あーっ!!」
 狭い壁に反響して、子供の声が余計うるさく聞こえた。
 声の主は言わずもがな、前方の二人のどちらかだろう。
「やっと見つけた、GUMP!!」
「あのねーちゃんが持ってないっぽかったから、引き帰して来て正解だったね、アミ!」
「そうだね、マミ! よーし、では早速、GUMPを取り返すぞ、おー!」
 どうやらあの二人は、真の持つ銃を知っているらしい。
 ならば持ち主のプティーブンについても知っているだろうか?
 真がどうにか、二人とコンタクトを取ろうとしたその時。
「出てこーい、インプー!!」
 子供の片割れが手を掲げると、彼女らの背後に稲光が走る。
 それほど酷い音はしなかったが、閃光はまばゆく走った。
 驚いて顔を隠し、再びその目を開いた時には――
「な、なんだあれ」
 真は目を疑った。
 今までなにも無かった所に、妙な動物のような物が浮いていた。
 子供達の背後に、羽の生えた『何か』がいたのだ。
「て、手品、だよね?」
「大道芸ならお捻りで暮らせるレベルだね、あれは」
 確かに驚きだった。今まで何もなかったところに突然現れた『何か』も驚くべき事だが、それが浮遊を続けているのにもまた驚きだ。
 どこからか釣っているのか、それとも何か別の仕掛けがあるのか。
 多少距離の離れている真からは、判断が出来なかった。
「でもあの二人、どうやらボクらに芸を見せに来てくれたわけじゃないらしいよ」
「そ、そうみたいだね」
 真は一歩前に出て、雪歩を背後にかばう。
 そして子供達を見ながら、銃を差し出した。
「君達、コイツの持ち主について、知ってるのか?」
「え? あー、うん。知ってるよー」
「あ、アミ。あんまり余計な事話すと怒られるんじゃない?」
「だいじょぶっしょー、これくらい」
 アミと呼ばれた子供は、ニコニコと子供らしい無邪気な笑みを浮かべている。
 その様子に安心した真だが、
「結局最後には殺すんだしねー」
 すぐに身構えた。
「そっかー。GUMPに関わった人たちは、みんな殺せって言われてたんだっけ」
「そーそー。だからてってー的にやんないとね!」
 いまいち実感は持てないものの、子供たちは何やら物騒な事を話している。
 その表情が無邪気その物だから逆に恐ろしい。
 あの二人はもしかしたら、虫を潰すぐらいのつもりで、真達を殺すつもりなのかもしれない。
 ……だが、どうやって?
 確かにあの二人の『手品』は凄かったが、手品で人は殺せない。
 実力行使されても、身のこなしに自信がある真は、子供二人ぐらい相手にしても何も問題はない。それだけの自信はある。
 見る限り、これと言って武装もしていない様だし、もしかしたら、背後に浮いている『何か』に特殊な仕掛けが……?
「んっふっふー、怯えろ! 竦め! GUMPの性能を活かせぬまま死んでいけー」
「認めたくないものだな、若さゆえの過ちと言うものをー」
 物凄く場違いな命令を受け、なんと驚いた事に、二人の背後にいた『何か』が動き始める。
 フラフラと浮かびながら、真達に近付いてきたのだ。
 手品にしては手の込んだ仕掛けだ。真にはどう見ても、アレが自ら動いているようにしか見えなかった。
「ま、真ちゃん」
「……雪歩、非常階段まで走るんだ。何か、マズイ雰囲気になってきてる」
 子供二人は階段の前に陣取っている。正規の階段を使うには、あの二人と『何か』を突破しないと無理だろう。
 だが、あの『何か』はマズイ。具体的に何がマズイか訊かれても答えに窮するが、どこか危険な雰囲気がするのだ。
 それならば、強行突破と言う危険を犯すより、反対側にある非常階段を使って外に逃げた方が良い。その方が確実に安全だ。
「君達、そんなにこれが大事かい?」
 真はGUMPを手の上で弄び、二人の注意を引く。
「そーだよ。大事だから早く渡してよ」
「渡したって、ボクらは殺されるんだろ?」
「そーだよ。そこのインプに切り刻まれちゃうよ」
「……だったら冥土の土産に教えてくれないか。このGUMPってなんなんだ? プティーブンって誰だ?」
「えーっと」
 真に疑問を投げかけられ、二人は首を傾げる。
 そうしている内にインプと呼ばれた『何か』はその場で止まり、二人のほうを振り返る。どうやら命令待ちらしい。
「雪歩、今だ」
「う、うん」
 真の合図で、雪歩は非常階段へ一直線に走る。
「あっ! 逃がすなー!」
「追えー、インプー!」
「させないよ!!」
 真はハッタリのつもりでGUMPを構える。
 すると、銃身部分が変形し、小さなモニターと操作パネルが開かれた。
「これは……こうやって使う物だったのか。なになに……?」
「あー、GUMPが起動されちゃう!」
「インプ! ザンマ!」
 命令されたインプは真に向けて手を掲げる。
 すると、そこから何かが弾けるような音がして、物凄い圧力が生まれた。
 圧力は弾けた勢いで衝撃波となり、真に襲いかかる。
 異常なまでの突風に近い衝撃。真はそれにあおられて吹っ飛び、廊下を転がる。
「うわっ!!」
「ま、真ちゃん!」
 ドアまで辿り着いていた雪歩は、真の声に気付いて立ち止まってしまった。
「今度は向こうだ! いけー、インプー!」
「や、やめろ!」
 再びインプが手を掲げ、狙いを雪歩につける。
 ドアが開けられている今、雪歩にアレが飛ぶと、彼女は階段から落ちてしまうだろう。
 ここはビルの三階。余程の事がない限り、ここから落ちて軽傷では済まないだろう。
 インプの構えた手に集まっている圧力が弾ける直前、真はGUMPの引き金を、無我夢中で引いていた。
『悪魔召喚プログラム起動、サモンスタート』
 機械音声が聞こえ、GUMPの先から閃光が迸る。
 真は何が起きたかわからなかったが、子供たちはどうやら舌打ちしていた様だった。
 光が消えると、代わりに手の平サイズの女の子がそこにいた。
「やぁっと外に出られた。何やってんのよ、アンタ。ホント愚図なんだ……か……ら?」
 小さな女の子は真を見て、いきなり厳しい言葉を浴びせてくるが、二人の目が合った時、二人とも疑問符を頭の上に浮かべた。
「ええと……君は?」
「アンタ、誰よ?」
 共に疑問を投げかける。
 だが、二人とも答える事が出来なかった。
 突然の状況に、頭が混乱しているのだ。
「ま、真ちゃん!」
 その間に雪歩が真の傍に戻ってきていた。
「ゆ、雪歩、ボクは放って先に逃げて!」
「で、できないよ、そんな事!」
 倒れている真に手を貸し、雪歩は真を起こした。
 小さな女の子は、その背に生えている羽を振るわせて浮き上がり、グルリと見回して状況を確認する。
「何これ、きったない所ね。……アイツの姿が見当たらない……? ったく、この私を置いてどこか行くなんて、良い度胸だわ!」
 どうやらご立腹の様子。
 真は混乱しながらも、どうやら敵対意思を持っている子供たちも、状況把握に手一杯な様子を見て、雪歩に合図する。
「行くよ、今の内だ」
「は、はい」
 二人で非常階段に向かって駆け出す。
「あ、ちょっと、待ちなさいよ!」
「おぉ、ターゲットが逃げたぞー、追えー!」
「らじゃー」
 真と雪歩の後に、小さな女の子、それに子供二人とインプも付いて来た。

*****

 町に入ってしまえばこっちのものだ。
 人に紛れて身を隠す事には慣れている。
「あれー、どこいったー」
「アミ、インプがちょー目立ってるんだけど」
「仕方ない、ここは一度出直そうか」
「そーだねー。帰ろー」
 緩い会話を交わして、子供たちは何処かへ消えて行った。

「ふー、なんとか巻いたな」
「大丈夫、真ちゃん?」
 物陰に隠れている間、ずっと真に寄り添っていた雪歩が、心配そうな声をかける。
「大丈夫だよ。見た目は派手だったけど、それほど痛くはない」
 と言うのはもちろん、強がりだった。
 本当は身体中をバットで思いきり殴られた様に痛い。
 どんな手品を使ったか知らないが、これほどの痛みは久々だった。
 だが、それを雪歩の前で見せるわけにはいかないだろう。
「これからどうするの? 一度病院に行った方が……」
「いや、ホントに大丈夫だって。……それより、このGUMPってヤツに興味が沸いてきた。あの子供にも借りを返さなきゃならないしね」
「そ、そんな……危ない事はやめようよ」
「探偵業に危ない事は付き物だよ。大丈夫、雪歩はボクが守るからさ」
 真に笑顔を向けられ、雪歩はそれ以上言葉が継げなかった。
 そう言う事を言ってる訳ではないのに……。
「あ、いたいた。ちょっとアンタ達!」
 突然声をかけられて、真は身構える。
 だが、周りを見回しても、それらしき人影は見当たらなかった。
「どこから……?」
「上よ、う・え!」
 言われて見上げると、先ほどの小さい女の子がそこにいた。
「アンタ達に訊きたい事があるのよ」
「それはボクの方にもあるよ」
 雪歩を庇う様にして立ちながら、真は警戒を怠らない。
 さっきのような目に遭うのは、出来れば避けたい。
「ああ、別にアンタらと闘り合うつもりはないわよ。それよりアンタ、そのGUMPをどうやって手に入れたわけ?」
「誰かの忘れ物を拾ったんだよ」
「ふーん……」
 あながち間違った事は言っていないつもりだ。
 このGUMPが依頼だとは正直思っていない。事務所の前におかれていた様だが、それがイコール依頼には繋がらないだろう。
 それに、報酬もない仕事はあまり受けたくはない。
「まぁ、ホントの事を言いたくないならそれでも良いけど」
「いや、八割はホントなんだけどね」
「そうなの? ……妙ね」
 小さい女の子は思考に沈む様に、顎に手を当てる。
 しばらくの間、真はその様子を黙ってみていたが、痺れを切らして口を開く。
「君は、一体なんなんだ? さっきのインプとか言うのもそうだけど……」
「ああ、ええと……端的な言葉で言うなら『アクマ』かしらね」
「あ、悪魔?」
 確かに、この女の子もインプも、普通は考えられないような姿と能力を持っている様だ。だが、それにしてもいきなり『悪魔』とは、突飛な考え方だ。
「アンタ達に色々訊きたい事はあるけど……とりあえず今は、GUMPの中に戻してくれる? マグネタイトの無駄使いなんて勘弁だわ」
「戻す? マグネタイト? 何を言ってるんだ?」
「ホントに何も知らないの? あっきれた。これじゃ宝の持ち腐れじゃない。いいから、早くしなさいよ!」
「え、あ……うん」
 女の子の剣幕に押され、真はGUMPを操作する。
 どうやらインターフェースはしっかりしている様で、初めて触る真にも、簡単に操作方法がわかった。
「これで良いのかな」
「意外と手際良いじゃない。見直したわよ、サマナーさん」
「サマナーって……?」
「アンタがGUMP持ってる内は、しっかり面倒見てやるわ。だから、マグネタイトだけはキッチリやりくりしなさいね!」
 そう言った次の瞬間、女の子は光の粒子になってGUMPに吸いこまれていった。
「……な、なんなんだ」
「味方、なのかな?」
「敵意はないように思えたけど……」
 ディスプレイを見ると、PIXIEの文字が表示されていた。
「ピクシー……。ヨーロッパの妖精だっけ?」
「わ、私は良くわからないけど……」
「とりあえず、色々情報が必要だ。すぐに出発しよう」
「どこに行くの?」
「情報屋さ。懇意にしてるところがあるだろ?」
 痛む身体で虚勢を張り、真は雪歩を連れて、また町の雑踏に紛れた。

*****

「うっうー」
「大丈夫よ、やよいちゃん」
 とある廃ビルの一室に、あずさとやよいがいた。
 あずさは交戦の後なのか、身体に幾つか傷跡が見えた。
「GUMPはプロデューサーさんの言う通り、菊池って人に届けられたはずだし、これで事態が好転すると良いのだけど……」
「うっうー……」
「信じるしか、ないわよね」
「なるほど、赤の他人にGUMPを渡したか」
「っ!? だれ!?」
 突然、男の声が聞こえ、あずさは自分に回復魔法をかけながら身構える。
 そこに姿を現したのは、高木だった。
「しゃ、社長……!」
「まさか、あれだけ私に啖呵を切った彼が、そんな事をするとは思わなかったよ。これも彼の狙いの内なのかね」
「聞いていたんですか」
「聞こえてしまってね。いや、有力な情報をありがとう」
 立ち去ろうとする高木に、あずさは手を掲げる。
「待ちなさい! 貴方を行かせはしません!」
「私を止められるかね?」
 高木が手を掲げると、彼の周りに何体もの悪魔が出現する。良く見ると、彼の前腕にはハンドヘルドコンピューターがつけられている。
「そんなっ、悪魔召喚が行えるの!? じゃあ、ターミナルは……」
「残念ながら、今の所まだターミナルを本稼動できてはいないよ。彼のかけたロックが意外と頑丈でね。だが、弱い悪魔なら未だ召喚する事は可能だ。近い内にロックを完全解除し、ターミナルとアマラ輪転鼓だけで強力な悪魔を呼び出す実験もして見るつもりだ」
「させません! 今ここで、貴方を討ち取る!」
「……無理はしない方が良い」
 高木は悪魔の隙間から、封筒を放った。
 封はされていない様で、中に入っていた紙がバラバラと床に散らばる。
「研究所に強行突破を仕掛けた研究員の報告書と、その証拠写真だ」
「……なにを……?」
「どうやら彼らは魔法を使いすぎて、完全にその身を悪魔にしてしまったり、アバタール・チューナーに身を堕としてしまったらしい。君もそうなりたいなら、止めはしないがね」
「嘘……そんな……」
「君の発案した魔法使いの研究も、結局は中途半端だったと言う事だ。残念だったな」
 今まで、あずさがバンナムを出てから、何度かアミとマミや、他の悪魔の襲撃を受け、自分ややよいを守る為に魔法を使ってきた。
 どの程度魔法を使うと悪魔になるのかわからない現状、無駄撃ちは出来なくなる。
 そして今、この場で悪魔になってしまうのはいけない。
 あずさがその手でやよいを殺してしまうかもしれないのだ。
「……っ!」
「ふふふ、撃てまい? まぁ、私も君と事を構えるつもりはない。今日は君にプレゼントがあるのだよ」
 そう言って高木は物陰から車椅子を押してきた。
 その椅子に座っていたのは……
「ぷ、プロデューサーさん!」
「これはただの抜け殻だがね。魂は今、魔界をツアー中だろう」
「なんて……酷い……っ」
「裏切りの代償にしては軽いと思うがね。何せ彼の魂はまだ生きているんだから」
 高木は笑いながらあずさを見る。
 だが彼女の方に高木を見返す余裕はなかった。
「身の振り方をよく考えると良い。君が協力してくれると言うなら、私達は喜んで受け入れる。愛する者を失う気持ち、そしてそれを取り戻したい気持ちは良くわかるつもりだよ」
「……それでも……っ」
「まぁ、答えを焦る必要はない。私はこれで失礼する。良い返事を期待しているよ」
 笑い声を残しながら、高木はその場を去っていった。

「うっうー」
 やよいが車椅子を押して、あずさの傍に近寄る。
 放心していたあずさは、心配そうなやよいの顔を見て、なんとか笑顔を見せた。
「大丈夫、大丈夫よ。何も心配ないわ……」
 やよいが擦り寄ってくるのを抱きしめながら、あずさはプロデューサーの顔を見る。
「プロデューサーさん……私は、どうしたら……」
 その時、プロデューサーの上着のポケットから、何か落ちてきた。
 茶封筒に手紙と、何か金属のような物が入っていた。
「これは……プロデューサーさんからの手紙!?」
 中身を読むと、手紙に同封されていたモノ『マガタマ』を菊地に渡せ、と書いてあり、最後に『諦めるな』と一言書き添えられてあった。
 あずさはその手紙を抱きしめ、静かに泣いた。
「うっうー、うっうー」
「うん、ありがとう、やよいちゃん。でも本当に大丈夫よ。私も決心がついたわ」
 あずさは瞳に決意を込め、強く頷いた。

 心なしか、やよいのポーチが笑った気がした。
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テーマ : 二次創作 - ジャンル : 小説・文学

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