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真・菊地探偵事務所 一章 4

4 心の矢印

「なぁ、姉さん。まだ帰んねーの?」
「当たり前でしょ。まだまだ付き合ってもらうわよ、荷物持ち」
 繁華街を歩き、如月千早は笑顔でいた。
 傍らに歳の近い弟を侍らせ、今日は楽しくショッピングだ。
「姉さんのお気に入りの服を汚したのは悪かったけどさ、朝からぶっ通しで連れ回されるほど、俺って悪い事したか?」
「したに決まってるでしょ。あれって凄く高かったのよ?」
「クリーニング代は払っただろ……」
「気持ちの問題よ。……あ、あとでカラオケにも寄りましょうか」
「……はいはい、わかりましたよ」
 大仰に首を振りながら、弟はそれでもカラオケだけは楽しみだった。
 千早の歌は飛びぬけて上手い。プロとも寸分違わないのでは、と思うくらいだ。
 これが身内の贔屓目ならばただの姉自慢だが、どうやら周りは弟以上に千早の歌を評価しており、プロの歌手へのスカウトが来たぐらいだった。
 弟は、そんな姉が大好きだった。
 シスコン、と言えばそうなのかもしれない。だが、それを恥とは思わなかった。
「じゃあ、早い所買い物を済ませてカラオケに行こうぜ。足が疲れて仕方ないんだ」
「ひ弱ね。サッカー部のクセに、もっと鍛えないとダメよ」
「うるせー」

 千早は弟が自慢だった。
 そこそこ顔も悪くないし、背も高い。
 中学生ながら運動神経がずば抜けていて、所属しているサッカー部でもエースナンバーを背負っている。
 MFとしてメンバーに指令を出し、攻撃に守備に、八面六臂の活躍をする、そんな弟が自慢だった。
 横に連れて歩けば、仲の良いカップルに見られる事もあり、それがくすぐったいが、嬉しい事でもあった。
 ブラコン、と言えばそうなのかもしれない。だが、それを恥とは思わなかった。
「ねぇ、荷物が重かったら私がちょっと持とうか?」
「……女に荷物持たせられるかよ。男としての尊厳に関わる」
「大した尊厳もないくせに……」
 茶化して笑いつつも、そんな気遣いが嬉しかった。

*****

 なんて事はない、普通の姉弟の、普通の休日風景だった。
 だがしかし、突然それが破られる。
「キャー!!」
「ば、化け物!!」
 通りの向こうから、そんな声が聞こえた。
「なんだぁ?」
「化け物……? 映画の撮影とかかしら?」
「行ってみようか?」
「え、良いわよ、そんなの見なくても……」
「いいから、行ってみようぜ!」
 好奇心旺盛な弟は、姉の手を引いて騒ぎの方へと駆け出した。

 映画の撮影なら野次馬がいるはずだ。そして、観衆はそちらへと足を向けてもおかしくない。だが、人の流れは千早達とは逆へ逆へと流れていく。
「ねぇ、帰りましょう? 進み辛いし……」
「いいや、ここまで来たら一目見ていこうぜ」
 繋がれた手に力をこめる。
 はぐれたりしたら嫌だった。
 ……それ以上に、今手を離したら、一生会えない気がしたのだ。
 千早は意地でもその手にかぶりつくぐらいの覚悟で、弟についていった。

 人波を抜けると、なんとも嫌な匂いがした。
「これは……っ」
「どうしたの?」
 前を歩いていた弟が急に立ち止まる。
 彼の肩越しから千早も前を覗く。そして絶句した。
「俺様の剣は、今日も血に飢えてるぜー!!」
 骸骨が哄笑していた。
 タネも仕掛けもわからないが、確かに手品のような風景だった。
 何処からか吊るされている様でもない、骸骨が二本足で立ち、その手に持っている剣を振り回しているのだ。
「なんだ、こりゃ……」
「どうなってるの……?」
 状況を把握できず、二人は疑問符を浮かべる。
 そして千早が地面に視線を落とした時、先ほどの嫌な匂いの正体を知る。
「あ、あれ!」
「ん? うぉ……!」
 人が血を流して倒れていた。
 傷口は切り傷の様で、肩から腹にかけてバッサリやられている。恐らく、死んでいるだろう。人形……なのだろうか?
「なんなの……映画の撮影じゃないの?」
「どう言う事だよ、これ……とにかく、ここは逃げ――」
「おんやぁ?」
 背筋が凍る。
 千早と骸骨の目が合った。
「おめぇ、美味そうだな? ちょっとつまみ食いさせろや」
「な、何を言って……」
「いっただっきまーす」
 骸骨は地面を蹴り、一跳びで二人の許までやってくる。
 そして大口を開けて千早に襲いかかるが、
「このやろぅ!!」
「うぉ」
 弟が骸骨に体当たりをし、それを阻止した。
 見た目どおり、あまり重くもなかったその骸骨は、ガラリと音を立てて倒れる。
「エキストラに絡む様じゃ、役者失格だぞ!」
「役者だぁ? そうさなぁ、俺様は銀幕スターもびっくりの美形だからなぁ」
 骸骨はユルユルと起き上がり、弟を見る。
「だが、残念ながら俺様は映画に出た事ぁねーよ。代わりにテメェを舞台に上げる事は出来るぜぇ」
「……何言ってるんだ?」
「ねぇ、逃げよう! ここにいたら危ないわ!」
「お、おぅ」
 千早が弟の服を引っ張る。
 千早は嫌な予感しかしなかった。
 あの転がっている死体も本物で、次は自分達があの横に並ぶのではないかと。
「逃がさねぇよ! 言ったろ、舞台に上げてやるってなぁ!」
 二人が逃げるよりも早く、骸骨の剣が閃く。
 そして、弟の腹部を貫いた。
「血祭りって舞台によぉ!!」
「ぐっ……」
 弟が血を吐いた。
「ウヒィハハハハ!! 生きの良いマグネタイトだな! こりゃ、恋の味かぁ? ウハハハ甘酸っぺぇなぁ!!」
 弟から滴る血を、骸骨は身体中に浴びながら、またも笑い始める。
 千早はその光景を見ながら、動けずにいた。
 声も出せず、ただただ目に映る物を否定し続けていた。
 ビクンビクンと震える弟の身体。出血は大量で、恐らくもう、助からないだろう。
「あ、ああ……」
「おぅ、次はお前だよ、女ぁ」
 骸骨が千早を見る。
「テメェはどんな味がするんだぁ? 食わせろよ、食わせてくれよ」
「い、いや……」
「嫌がる事ぁないだろ? すぐにコイツと同じトコに行かせてやるんだからよ」
 骸骨は剣を振り回し、千早の目の前に弟の亡骸を転がす。
 それを見た瞬間、千早は身体中が熱くなった。
 怒りと悲しみが同時に噴き出し、心の中を黒い濁流が埋める。
「さて、改めて、いただきまぁす!!」
 骸骨が襲いかかってくる直前、心の中に声が響く。

『我は汝、汝は我、我は汝の心の海よりいでし者。力を貸そうぞ』

 気が付くと、千早は見た事もない部屋に辿り着いていた。
 大きなグランドピアノが置かれ、弾き手と、それに合わせて歌うボーカルがいた。
 壁は青いカーテンで覆われ、ブラックライトが部屋中を照らしている。
「ようこそ、お客人」
 声が聞こえ、そちらを見る。
 鼻の高い、初老の紳士が椅子に座っていた。
「ベルベットルームへようこそ」

*****

 光が弾け、辺り一体は焦土と化す。
 建物も、人間も、骸骨も、何もかも巻き込んで、大爆発が起きた。
 その中心に、たった一人の少女を残して。
「これが、私の得た力……」
 立っていたのは千早。その手には一枚のカード。
 ペルソナカードと呼ばれるそれを手にした千早の胸に浮かぶのは、ただ復讐の念のみ。
「あの骸骨が、いない」
 爆発で蒸発してしまった事に気付かない千早は、弟を殺した骸骨を探して、フラフラと去っていった。

 その後、彼女は骸骨を探すのを止め、骸骨を呼び出した人物に行き当たり、彼を探し始める。
 それは既に復讐とは別の道を行き始めている事に、気づかないまま。
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テーマ : 二次創作 - ジャンル : 小説・文学

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