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真・菊地探偵事務所 三章 12

12 悪なる神

 カグツチ塔に至り、更に最上階を目指す真たちの目の前に現れたのは、巨大な神の影だった。
「これは……」
『最後に残った創生の器は貴様か、魔人よ』
 立ちはだかったのはアーリマン。
 ゴズテンノウと戦った消耗など一切感じさせず、真たちの道を阻む。
『このまま捨て置いても、我がシジマの世界の障害にはならぬのだろうが……念には念を入れておくか』
「やるつもりか!?」
『お前とて、ここで我を見つけたからにはただで通すつもりもないのだろう? 創世前の最後の遊戯だ。とくと楽しむといい』
 アーリマンの言う通り、今、このボルテクス界にはゴズテンノウはおらず、イザナミもいない。創生を行える存在はアーリマンと真だけとなる。
「真さん、気をつけてください! アーリマンはとても強い悪魔です!」
 ホルスが真の傍で注意を促す。
 しかし、それにも真は笑って答えた。
「大丈夫だよ。ボクにはみんながついてる。負ける気なんかしないさ」
「……そうですか。ですが、少し時間をください」
 そう言って、ホルスは一向から一歩前に出て、アーリマンと対する。
「私の声が聞こえますか?」
『……異国の神か、遺言でも遺そうと言うのか?』
「そうではありません。私の姿に見覚えはなくとも、声に聞き覚えはありませんか?」
 アーリマンはしばらく黙った後、しかし低く笑う。
『何のつもりかは知らんが、貴様など知る由もない』
「……えっ」
 その反応はホルスにとって意外だったようで、慌ててアーリマンの目線まで飛び上がる。
「私です! 小鳥です! 本当に覚えてないんですか!?」
『知らんと言ったら知らん。……貴様、どういうつもりだ』
 全く取り付く島もないアーリマン。
 ホルスもしっかりと悟る。これは嘘ではない、と。
「そんな……人格が完全に食われてしまったの!?」
『なるほど、器となった人間の知己といったところか。だが残念だったな。あの男は既に、我が内で存在の鳴りを潜めた。存在が完全に消えるまで、そう時間はかかるまいよ』
「なんてこと……本当の『受胎』の記憶が強すぎる」
 ホルスの目論みは、アーリマンの器となった高木の知り合いである自分が呼びかける事で、アーリマンの弱体化だったのだが、それが全く意味を成さない事になった。
 それどころか、このままではアーリマンに完全に食われた高木の思想は消え去り、アーリマンは本当にシジマの世界を作り出す事になる。それは東京受胎の時に成らなかったニヒロの宿願であり、最終目標。
 このボルテクスとしては異質の思想となる。

*****

「ほぅ、面白い事になったな」
 状況を遠巻きに見ていたやよいは、さも楽しげにそれを見下ろす。
「まさかこんなところでイレギュラーが発生するとは。葛葉の介入も前回にはなかった事だったが、アーリマンの強化が起こるとは」
『どういうことだよ』
 隣に浮いていたプロデューサーの思念体が噛み付く。
『社長は小鳥さんを忘れたって言うのか!?』
「いいや、彼自身はそれを目的としてボルテクス界を作り出したのだから、それを忘れる事はまずありえないだろう。この場合は高木順一郎という個がアーリマンに同化し、それによって人格を支配されつつあると言う事だ」
『より強い力を持った神の意思によって、社長の人格が消えかかってるって事か』
「君は理解が早くて助かる」
 嬉しそうに笑った後、やよいは更に続ける。
「そもそもこのボルテクス界には幾つかのイレギュラー要素が、最初から混ぜ込んである。いいや、それはボルテクス界が始まる前からだがね。その要素を混ぜ込んだのは私だ」
『あの妙な言動の雪だるまとか、ホルス……小鳥さんとかか?』
「その通り。更にそのイレギュラーが葛葉の介入や、イオリの覚醒と言う更なるイレギュラーを呼び、更にここに来てアーリマンの強化に至ったと言うわけだ。他のボルテクスではアーリマンは一番初めに打ち倒されるコトワリであったはずが、このボルテクスでは今一番、創世に近い存在となっている。これは興味深いね」
『そんな事言ってる場合か! アイツが創世したら、世界はどうなるんだよ!?』
「彼の思う通りの世界が出来上がるだろうね。確か静寂なる世界、シジマのコトワリだったか。その世界が出来上がるのなら、それも構わないさ」
『そんな……ッ!』
「君ももうわかっているだろう? この世界は単なるボルテクス界ではない。いや、ボルテクス界だけでなく、その前身であった死に行く世界も全て、仮初の泡沫に過ぎない」
 やよいの言葉に、プロデューサーは、しかし頷く。
 彼女の言っている事は、なんとなくではあるが理解できる。
 ここまで一緒に世界を俯瞰していたプロデューサーにとって、やよいの思惑もチラチラと垣間見えてきたのだ。
「この世界の行く末は、全てが茶番に過ぎない。もしくは取って付けた様な蛇足にしかならない。故に、このボルテクス界がどう転んだとしても、大勢に変化はないのだよ」
『だからと言って、ここまで手を貸してきた真って娘を放っておくのか?』
「手を貸したつもりはないがね。興味の対象として観察してきたわけだが、こんなところで挫けるのならば、その程度の存在だったと言う事。言っただろう、大勢に影響はない」
 つまり、この世界がどうなろうと、やよいの……いや、ベロチョロに宿ったルイ・サイファーに影響はないと言う事。知った事ではないのだ。
 故に、アーリマンに相対した真が劣勢であろうとも、やよいはその場から動く事はない。
 ただただ、現状を見下ろすのみ。
「それに何より」
 最後にやよいは付け足すように言う。
「未だにこの世界は、私の手の内を超えてはいない」

*****

 大きな思惑を知らず、真はただ、敵としてアーリマンと対する。
「そっちがボクの邪魔をすると言うなら、倒してでも先へ進むよ!」
『面白い、小さき物に何が出来るのか、見せてもらおう』
 アーリマンがグラグラと音を立てて構えだすのに対し、真たちも各々構える。
「ホルス、知り合いっぽかったけど、倒してもいいんだよね?」
「……ええ、今はその方が彼のためです。神に存在を食い尽くされる前に、アーリマン自身を倒せばあるいは助かるかもしれない」
「わかった。じゃあみんな、やるよ!」

 まずは素早いホルスが魔法の詠唱を終える。
「スクカジャ!」
 全員の身体が浮くように軽くなる。
 身軽になった補助魔法に加えて、更にミキが続く。
「行くの! マカカジャ!」
 普通、ジャックフロストが覚えない魔法も、彼女にとって見ればお構い無しの様だ。
 魔法を強化する魔法で力も増した後、満を持してイオリが動く。
「喰らいなさい、絶対零度!!」
 イオリの腕からほとばしる冷気が、周りの水分を巻き込んで氷結し始める。
 その氷塊はアーリマンに伸び、そのまま鋭い切っ先を向ける。
『甘いわ!』
 しかし、アーリマンの腕の一振りで、その氷塊は粉々に砕かれてしまった。
『氷の魔法とはこういうものだ! 喰らえ、マハブフダイン!!』
 詠唱と共に、真一行の足元から氷が生える。
 それは全員を飲み込む氷の棺となり、身動きを封じた。
『粉々にしてくれるッ!』
 更に、アーリマンはその背後から生える触手を振るい、真たちを一瞬にして砕かんと襲い掛かる。
 ……だが、
「そんなものじゃ、ボクたちは止まらないッ!」
 真の持っている剣、ヒノカグツチによって全ての氷は一瞬で水となり、更に触手を受け止めた。
「雪歩、今だ!」
「は、はい!」
 触手を受け止めた時の一瞬の隙。
 そこに、雪歩が練っていた魔法が発動する。
「行きます、リムドーラ!!」
 突き出した腕から凄まじい衝撃波が巻き起こる。それはアーリマンの巨大な身体を押し返すほどの物だった。
『ぐ、ぬうッ!?』
「怯んだ! 今ならッ!!」
 受け止めていた触手も勢いをなくした今が好機。
 真は地面を蹴って踏み込み、懐から管を取り出す。
「ヒビキ、出番だ!」
「待ちくたびれたさー!!」
 シジョウから貰った管から飛び出したのはヒビキ。
 飛び出した勢いのまま、アーリマンに突っ込み、その身体に爪を立てる。
『クズ悪魔が! 小賢しい!!』
「そんなモノ、自分には効かないぞ!」
 アーリマンは触手を操ってヒビキを叩き落しにかかるが、しかしその触手は見えない壁に阻まれる。
『物理攻撃が効かんのか……ッ!』
「それだけじゃ終わらないよ! マコト!」
「おう!」
 腹部に突き刺さるように攻撃していたヒビキ。
 それに気を取られていたアーリマンは頭上への警戒を怠っていた。
 飛び上がっていた真は、巨大なアーリマンよりも高い位置を取っていたのだ。
「これで、――」
 真の持つカグツチが吼える様に燃え盛り、その刀身を何倍にも伸ばす。
『そんなもので……ッ!』
 それに迎え撃つように、アーリマンは羽を広げて真よりも高く飛び上がろうと試みる。
 しかし、その瞬間にアーリマンの身体中にヒビが入る。
『ぬぅッ!?』
 恐らく、ゴズテンノウからの連戦で身体に無理が来たのだろう。
 本来のアーリマンの力ならば、こんな事態にはならなかったが、身体が完璧ではなかったのだ。
『こんな所で……我が野望が潰えるのかぁッ!!』
「――終わりだぁッ!!」
 カグツチの一閃がアーリマンを捉える。
 肩口に入ったカグツチの炎が、アーリマンの身体の至る所から吹き上がり、その身体は間もなくしてバラバラに崩れ落ちた。
 後に残ったのは初老の男性だけだった。

*****

「ホルス……」
 倒れ伏している初老の男性、高木を前にホルスが止まっていた。
「高木社長は君の知り合いなのか?」
「……ええ、私、実は人間だったんですよ」
 ここまで来て、驚くような事もなく、真は普通に頷いた。
「なんか、もう大抵の事じゃ驚かないよ」
「そうですか。ちょっと私的には衝撃のカミングアウトのつもりだったんですけどね」
 それでもホルスは笑って続ける。
「私にも何故悪魔になったのかはわからないんですが、気が付いた人間の身体はなくなって、今の身体になっていました」
「人間が悪魔になる事もあるのか……」
「アバタール・チューナーと同じ様なものだと思います。不安定な魂だけになって、悪魔に乗っ取られたのかもしれないし、逆に悪魔の身体を乗っ取っちゃったのかもしれませんね」
「それで、ホルスが人間の時の知り合いが、高木社長……」
「ええ、育ての親と言ったところです。しかも、彼は私を生き返す為にこんな事を……。全ては私の責任だったんです。どう謝ったところで、償いきれません」
 高木がボルテクス界を作ろうとしたのは義娘の小鳥の魂を取り戻すため。
 つまり、ホルスは小鳥の魂が乗り移った先、という事になるのだ。
「もう起きた事を悔やんでも仕方ないよ。これから創世で取り戻せるんだ。それのために頑張る事で、清算って事にしようよ」
「……そう……ですね」
 アーリマンを倒した事で、創世を行える存在は真だけとなった。
 あとはカグツチ塔を登りきり、カグツチに至り、創世を行うだけだ。
「行こう、みんな。やっと終わりだ」
 もうすぐ、この旅も終わる。
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テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

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