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真・菊地探偵事務所 三章 7

7 魔丞

 フラフラと歩いた先には、とても高いビルがあった。
 バンナムほどではないだろうが、それでも見上げ続けると首が痛くなる。
「……なにかしら、ここは」
 そのビルの入り口に、千早が立っていた。
 マダを退けた後、どこへ行くともなく歩いていたのだが、気がつけばこんな場所に辿り着いてしまっていた。
 ここがどこだか、千早自身にはわからないが、バンナムのビルもあったビル街である。
「私は、どうしてこんなところへ……」
『力が欲しくないか』
 胸の中に沸いてくる声。
 千早は自分の胸を押さえ、ビルの屋上を見上げる。
『力が欲しくはないか』
 もう一度聞こえた。恐らく、この上から声を送っているのだろう。
 なんとなくそれを理解し、千早は意を決してビルへと足を踏み入れた。

 面白い事に、ビルの中には精霊も妖精も、悪魔も天使もいなかった。
 もぬけの殻だったのである。
 電気も通っていないようで、エレベーターは動いておらず、千早は階段を上って屋上を目指した。
 途中、窓から外を見やると、そこは見知らぬ世界、ボルテクス界。
 自分はどこまで流され、歩いてきたのか。何故だか笑みが零れた。
「力が欲しいわ」
『ならばくれてやろう。しかし、我が力の代償は安くはない』
「……どうでも、いいわ」
 屋上の前に辿り着き、錆び付いたドアを開ける。

 そこには大仏のような物が建てられてあった。
 ビルの下からは見えなかった、赤黒い石を彫って作られたようなそれは、気味悪くも頭だけ床に落ちている。
 ゴロリと転がる首は、千早を見据えているようだった。
『ニヒロの奴ばらにしてやられてどれくらい経ったものやら、時を数えるのも忘れていた。お前が我が力を受け継ごうとする者か』
「そうよ。私は力が欲しい」
『何のために力を振るう? 創世か?』
「創世? 何の事、それは」
 千早はこの世界にあって、唯一人創世という目的を持たない者だった。
 それもそのはず、世界なんか蘇らないと思っているのだ。創世を目的にするはずもない。
「私が力を欲しがるのは全て、復讐のため。弟を殺した悪魔を殺し、それを操っていた高木を殺し、私を欺いた春香を殺すわ!」
『復讐、か。それも良かろう』
「あなたに言われるまでもないわ」
 声にその目標を認められようとも、千早の心には何の波紋も浮かない。
『お前は持てる物を奪われた。それはお前が弱かったからに過ぎぬ。弱き者は奪われ、殺される。それは当然の道理よ』
「なんなの、それ? だったら、弱者は泣き寝入りしか出来ないっていうの?」
『そうではない。本当の弱者ならば寝入る前に食い殺される。だが力を得るべき者ならば、然る時に力を得、奪う側に回る。それが自然であり定めである』
「だから私は力を得て、あいつらに復讐を……ッ!」
『そうさな。力を得たのならば奪わなければならん』
 床に転がる頭がゴロリと動き、その目を光らせ、千早を見る。
『弱肉強食を体現せよ。力こそ全て、力こそ正義、力こそ真理。力を以って力を征し、それを上回る力を以って淘汰されよ。奪った者を打ち倒し、全てを奪い、そして行く行くは貴様も奪われるがいい。その力の輪廻こそコトワリとなる』
「……力が力を支配する世界、それが貴方の望む世界なの?」
『そうだ。それこそヨスガの世界。この荒廃したボルテクス界の行く先よ』
「面白いわ。そんな殺伐とした世界も悪くないかもしれない」
 千早はペルソナのカードを取り出す。
 最高位の神が描かれたタロットだが、それでも春香には敵わなかった。
 それは心が弱かったからだ。千早が今以上の強さを得るには、自分が強くならなければならない。
「一つだけ言っておくわ」
『……なんだ』
「私は貴方の言う世界にはこれっぽちも興味を持てない。だから、貴方の力を得る代わりに私は貴方の器になる。私の望みが叶えられれば、あとは貴方の好きになさい」
『自我を放棄するというのか?』
「私の望みは復讐だけ。それが終わればこんな世界、どんなになっても構わない。そこに私という個があろうとあるまいと、私には関係ないわ。私の望みさえ果たされれば良い」
『それではお前は、我がマガツヒを得たところで変わらぬだろう。弱きままだ』
 それは過去に囚われたままということ。ペルソナの力は変わらない。
「でも貴方なら存分に、純粋なままで力を使う事が出来るでしょう? 過去にも囚われず、本当の意味での心の強さを行使できる。だから、これだけ約束して。高木と春香を殺せば良い。それだけ守られれば、私は貴方の中で鳴りを潜める。私の身体、好きに使いなさい」
『……異な決断、しかしその願い聞き入れた』
 首の目が一際光り、その瞬間、どこからか稲光が落ちる。

*****

「な、なんだぁ?」
 突然の轟音に、モムノフが空を見上げる。
「あれ……」
 春香も気付き、ある一点を指差す。
 その先には背の高いビル、そしてその屋上に突き刺さる稲妻を見た。
「なんだろう、嫌な予感がする。……モムノフ、急ぐわよ!」
「お、おぅ」
 春香とモムノフが駆け出そうとした瞬間、足元に銃弾が放たれる。
「……っ!? 邪魔者、だけど、ここは黙って通るわけには行かないわね」
 地面を穿った銃弾は小口径。拳銃のモノだろう。
 悪魔が拳銃を使うわけがないし、知っている人間で銃を使っていたのは一人しかいない。
「デビルサマナー、葛葉シジョウって言ったかしら?」
「覚えていてくれたとは、光栄ですね、人修羅」
 ビルの陰から現れたのは黒い外套をまとった女性、葛葉シジョウとその連れであるヒビキ。
 既に刀も抜かれ、臨戦態勢であることは間違いない。
 春香もモムノフも意識を切り替える。
「アンタには会いに行こうと思ってたところよ。手に入れたこの力、そこの猫にも通用するか試してみたかったし、何より負けっぱなしは癪なのよね」
「それは丁度良かった。こちらにも時間がありません。既に二柱の顕現が成り、三柱目も準備が出来た様子。我らが葛葉の四天王もいない今、私が貴方を止めるしかありません」
「私を止める、ね。出来るのかしら? 今の私はちょっとすごいわよ」
 春香は握り拳を掲げる。
 その拳を見てシジョウは並々ならぬプレッシャーを感じた。
「なるほど、何をどうしたのか見当もつきませんが、人修羅の力を開花させつつあるようですね。これはこちらも本気で行かなければなりません」
 そう言ってシジョウが取り出したのは二振り目の刀。鍔に札が貼られており、どうやら封印されているようでもある。
 その札を親指で弾いて破き、シジョウはゆっくりと鞘から刀を抜く。
「ある時は世界の終末を見届け、ある時は世界を作り変える力となり、ある時は産んだ母を焼き殺す。猛る炎、神殺しの火、カグツチ」
 シジョウが抜いたその刀は、真の持っていた炎の剣と瓜二つ。
 刀身に赤い炎を纏い、轟々と猛る姿は春香も見覚えがある。
 バンナムの地下で真が持っていた剣だ。
「何故、アンタがそれを……っ!?」
「安心なさい、あのサマナーから奪ったわけではありません。これは葛葉に秘剣として封じられていた一振り。此度、私がこの事件に介入するに当たって、葛葉宗家から賜った品です。あの剣とはまた別物」
「にしたって、そんな物騒な刀が二つもあるわけ……」
「そうでしょうね。そう考えるでしょう。私もこの剣は一振りしかないと聞かされていました。カグツチが二振りもあるのは、何か理由があるのでしょう。ですが、今はそれを問うてる暇はありません」
 シジョウがカグツチを構え、春香を見据える。
「今はただ、貴女を全力で討つ。それが私に課せられた使命ですから」
「ふぅん、なるほど。『現実あるものはある』って事か。まぁ疑問に思っても仕方ないわね。考えるのは後で良い」
 春香も呼応するように構え、隣でモムノフも槍を構えた。
「アンタがそれを持った事で、確かに脅威になったし、それを認識できただけで十分」
「その通りです。……決着をつけましょう、人修羅」
 シジョウが刀を中段に構えたまま、春香に向けて突進する。

 そのスピードは以前とは比較にならないものだった。
 地下での一戦が本気でなかったのか、と疑うほどの突進力。
 だが、春香とてあの時とは違う。
 突き出されたカグツチを握り、その突きを防ぐ。
「熱っ……でも、我慢できないわけじゃない!」
「ヒビキ!」
 カウンターの拳が掲げられた瞬間、シジョウの背後からヒビキが飛び出し、魔法を唱える。
 彼女の腕に集まっているのは風。衝撃の魔法、ザンマである。
「させるか!」
 しかし、ヒビキの横合いからモムノフが飛び出し、槍を振りかぶってヒビキを打ち落とす。
 その打撃は得体の知れない壁のようなものに阻まれてダメージを通すことは出来なかったが、ヒビキの気を逸らす事は出来た。
 春香はその隙にカグツチを放してカウンターを断念、シジョウを手前に引っ張って、自身は彼女の脇を抜け、背後に回る。
 瞬く間にシジョウと春香の位置が逆転する。ヒビキもそれを瞬時に悟って魔法を中断した。あのまま放てばシジョウに直撃していたところだ。
「やっぱりこの猫が厄介ね! モムノフ、シジョウを頼むわ!」
「あんまアテにすんなよ? 女相手は慣れねぇんだからな!」
 モムノフはヒビキの発生させる謎の壁を蹴り飛ばし、シジョウに対して突進する。
 それを察知したシジョウは、振り返りざまにカグツチを振り、モムノフの槍をいなして彼から間合いを取る。
 さらにその傍らで春香はヒビキに腕を伸ばす。
「無駄さぁ! 自分に物理的な干渉は……」
「さて、どうかしらねっ!!」
 自分の能力に胡坐をかいていたヒビキ。しかし、それは間違いだった。
 シジョウは冷静に春香の力を分析していたが、ヒビキはそれを怠っていたのだ。
 いつも通り、ヒビキの周りには謎の壁が発生されるが、春香の腕はそれを突破する。
「なっ!?」
「捕まえたぁ!」
 春香はヒビキの腕を掴み、そのまま力任せに振り回してブン投げる。
 まるで戦車の主砲から発射された弾のように、ヒビキは殺人的なスピードを以って投げ飛ばされ、ビルの壁に激突する。
 その衝撃は凄まじく、一瞬にしてビルの一階部分を薙ぎ倒し、支えを失ったビルは崩れ落ちる。
 濛々と土煙が立ち上り、辺りの視界を奪う。
「バカヤロウ! ちょっとは状況考えて攻撃しやがれ!」
「仕方ないでしょ、私だってこの力を手に入れて日も浅いんだから、加減がわからないのよ!」
 土煙の中で背中合わせに立った春香とモムノフの叫び声が響く。
 恐らく、声で位置情報は捉えられたはず。シジョウが煙に乗じて不意打ちをしてくる事を睨んで、二人はカウンターを狙っている。
 しかし、煙が晴れてもシジョウは来なかった。
「……どういうこと?」
「俺が知るか」
 辺りを窺うと、近くにシジョウの姿が見当たらず、彼女はヒビキの回復を優先していた。
 宝玉をかざし、ヒビキの傷を癒していた。
「ふん、やっぱりその猫が攻撃の起点になってるみたいね。でも、もうその壁は役に立たないわよ」
 春香の言葉を聞いてか聞かずか、シジョウはヒビキの回復を終えて立ち上がる。
「……ヒビキ、まだやれますか?」
「もちろんさぁ。でも確かにあの人修羅の力は厄介だね。自分の『物理吸収』が通用しなくなっちゃったよ」
「それでもまだチャンスはあります。慎重に攻めましょう」
 シジョウが剣を構え、ヒビキも慎重に立ち位置を取る。
 戦闘が仕切りなおされようとした――その時。
 何の前触れもなく、四人の丁度中間に少女が降り立つ。
「……なっ!?」
 驚いて退いたのはシジョウ。
「ち、千早ちゃん!?」
 駆け寄ったのは春香だったが、その手をモムノフに掴まれて止まる。
「何するの!?」
「待て、千早の様子がおかしい」
 言われて見れば、確かに様子はおかしい。
 まっすぐ、綺麗だった黒髪はバサバサの白髪に変化しており、それより何より、その左腕が奇形に変形していた。
 およそ人とは思えないその姿に、一同は息を呑む。
「……そこの女」
 千早は春香をチラッと窺って言葉を発する。
「貴様がハルカ、というのか?」
「な、何を言ってるの、千早ちゃん?」
「訊いているのは我だ。答えよ」
 とてつもないプレッシャーが春香を襲う。
 だが、それはペルソナの力ではない。何か別の……。
「そうよ。……貴女は、誰?」
 春香は身構えて尋ね返す。
 問いに軽く笑った千早は、天上を指差す。
「女、今は貴様を殺す事はせん。我には先に屠るべき宿敵がいる。よって、貴様の死地はカグツチへ至る塔の中だ。我の手にかかるまで、死ぬなよ?」
「ち、千早ちゃん?」
「我はチハヤなる少女であり、マントラ軍の大将、ゴズテンノウなり。覚えておけ、貴様は我が殺してやる」
 千早はそう言った後、現れた時と同じ様に、音もなく消えた。
「千早ちゃん!」
 春香の声も虚しく響くだけで、千早の影にも届かなかった。
「くそっ、なんだって言うの!?」
 突然の出来事過ぎて、思考が追いつかなかった。
 だが理解できた事は一つ。千早は何か別の力に乗っ取られている。
 だとすれば、まずはその力から解放させなければ話どころではない。
「アンタ、葛葉シジョウって言ったかしら? アンタとの勝負はまた今度よ」
「……先程の少女を追うのですか?」
 気付くと、シジョウは剣を収めており、ヒビキの方も毛繕いを始めていた。
 完全に戦意を失っている。
「だったらどうしたのよ?」
「……人修羅、貴女に問います。先程の少女、千早と言いましたか? 彼女は貴女にとって、この世界を変えてまでも助けたい相手ですか?」
 突然の質問に、春香は多少面を食らったが、それでもすぐに答える。
「世界なんか関係ないわ。こんな常識ハズレの世界だろうとも、私は千早ちゃんの友達であり続ける。千早ちゃんがああなっちゃったのは私の責任でもあるし、友達ならあんな千早ちゃんを放ってはおけないもの」
「……なるほど。思考は柔軟にせねばなりませんね」
 シジョウはそう言うと、懐から石を取り出して春香とモムノフに放った。
「魔石です。回復に使うと良いでしょう」
「……どういうつもり? さっきまでは私たちを殺すつもりで戦ってたんでしょう?」
「私の敵は世界を脅かすモノたち。……どうやら貴女はそれに当てはまらないらしい」
「これだけやって、魔石の譲渡だけで話をつけようってのは、ちょっと虫が良すぎるんじゃない?」
 ともすれば死ぬような目にあったのは事実。だがそれはお互い様だが。
 しかし、今の戦闘では春香の方が優勢だった。劣勢だったシジョウが魔石程度で、今までの事を水に流して欲しい、なんて釣り合わない。
「私はこれ以上の消耗を望みません。貴女がなんとしても私を除く、と言うのならば、今度こそ全力を持ってお相手します」
「まだ全力じゃなかったっての? 嘘くさいわね。単に虚勢を張ってるだけじゃないの?」
「……私の仲魔はヒビキだけではありません。管は十二本。その内、貴女の連れ以上の力を持つ仲魔がいないと思いますか?」
 そう言われてみると、シジョウの外套の下には管を補完しておくための肩吊りが巻かれている。そこには確かに管が十二本。一つがヒビキの管だったとしても、あと十一本は余力があると見て良いだろう。
 その中にモムノフを押さえつけるだけの力を持っていた悪魔がいたとしたら?
 サシでシジョウと立ち合って、勝率は如何ほどだろうか?
 彼女の持つ炎の剣は真の持っているモノと同じ。あの剣の威力は、律子が言うにはまだ片鱗だけらしい。だとすれば、勝率は五分と言った所だろうか。
「ブラフ臭いけど……まぁ別にいいわ。これ以上アンタと小競り合いをして、千早ちゃんを見失ったりしたら意味ないし」
「恩に着ます、人修羅……いえ、春香でしたか」
 シジョウに初めて名前を呼ばれ、春香はクスリと笑う。
 やっとこれで人扱いしてもらえるだろうか。
「別に良いわよ。……それで、アンタはこれからどうするの?」
「あのサマナー……菊地真の助力へと参ります。貴女とも縁があれば再会するやも知れませんね」
「真が今どこにいるか知ってるの?」
「ええ、ボルテクス界の僻地、アマラ神殿へと向かっている、と情報を手に入れました。かの地にて彼女も守護を降ろすつもりのようです」
「……なんだかよくわかんないけど、会ったらよろしく伝えておいて。私はまだやる事があるしね」
「そうですか。では、次に会うのはカグツチへと至る塔にて、でしょうか?」
「その何とかの塔ってのもわかんないんだけど……」
 今まで何度か話の端っこに出てきている『カグツチへと至る塔』。
 カグツチと言うのは天に浮いている太陽のようなアレ、だというのはわかる。
 だが、そこへ至る塔、と言うのは何のことだろうか? 今のところ、そんな高い建物なんて見当たらない。
「時が来れば知れましょう。そして、その時ももうすぐ」
 外套をはためかせ、シジョウは春香たちに背を向けた。
 その姿が見えなくなるまで見送った後、春香はモムノフに向き直る。
「アンタは知ってる? カグツチに至る塔」
「知ってるよ。……だがまぁ、百聞は一見にしかずってな。言葉で言うより実際見る方が早いと思うぜ」
「じゃあその時までお預けってわけ? 仲魔の癖に生意気な」
 とは言った春香だが、無理に問い詰めるわけでもなく、そのままそこから消えた。
 この地に『カグツチ塔』が現れるのは、もうすぐ。
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テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

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