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真・菊地探偵事務所 三章 3

3 地下の暴風

 HRインフォメーションの事務所内に、ターミナルと呼ばれるオブジェと同じ形をした物が置かれてあった。
 春香も律子も、こんな物を調度品として置くような趣味は持ち合わせていないし、恐らく、受胎後に誰かが置いた物なのだろう。
 そのターミナルが、無人の事務所内でひとりでに回り始める。
 回転の速度が速まり、それが最高潮に達すると、辺りを閃光で埋めた。
 光が収まると、そこには律子と春香が現れていた。
「ここは……事務所? なんでこんな所に?」
「このオブジェがここに置かれてた所為みたいね。なるほど、やっぱりターミナル同士は繋がってるみたいね」
「アマラ経絡、ってヤツ? 正直、よくわからないけど、便利なモノがあったものね」
 二人が突然、事務所に現れたのにはトリックがある。
 ボルテクス界となったこの世界には、ターミナル同士を繋ぐアマラ経絡と言う物がある。全ての力の源であるマガツヒの通り道であり、世界を繋ぐ情報網であり、移動の為の手段でもある。
 ターミナルの転送機能を使えば、瞬時に別のターミナルへと移動する事が可能なのだ。
「それで、律子は本当に一人で大丈夫なの? 私は悪魔の力を得たみたいだけど、律子はそうでもないんでしょ?」
「言ったでしょ? これでも腕に自信はあるのよ。春香に心配されるほどじゃないわ」
「そう……。なら信じるわ」
 長い間、相棒として培った信頼はある。
 律子が大丈夫だと言う時は、大丈夫だ。
「春香の方はどうなのよ? 何かアテはあるわけ?」
「アテ……か。これと言ってないわね」
 千早がどこに行ったか、なんてわかるわけもないし、自分の力をどう伸ばして良いかもわからない。完全な暗中模索状態である。だが、それで立ち止まるわけにもいかない。
「律子から教わった事よ、アテがないからって諦めないってね。足を使えば情報は集まってくるわ、きっとね」
「……わかってるなら、よし。行ってらっしゃい。お互い、死なない様にね」
「ええ、律子も気をつけて」
 相棒からの信頼を受け、二人はここで別れる事になった。
 ドアを開けて出ていく春香を見て、律子は携帯電話を握る。
「大丈夫、きっとこの世界は変わっている。あの娘は死んだりしないわ」
 自分を勇気付ける様に零し、『らしくない』と自嘲しながら、ターミナルに向き合った。
 情報を集めるなら広く。ターミナルならばそれも簡単に行えるはず。
「さぁて、まずはコイツをどう上手く動かすかが問題ね。腕が鳴るわ」
 仕様書がついているわけでもなし、『前の世界』とはターミナルの中身が変わっているらしい。こちらも暗中模索っぷりは春香に負けていなかった。

*****

 バンナム地下。
 廊下を突き当りまで歩くと、そこに横穴が開いていた。
「風が通ってる……。奥はどこかに繋がってるのかな?」
 多少強い風が穴から吹いてきており、真は帽子を飛ばされない様に押さえる。
「これは外と繋がっているわけではなく、セトが起こしている風でしょう。あの神は嵐と戦争の神ですから」
「ホルスはセトってヤツの事、よく知ってるの?」
「ええ、一応。セトは私の叔父に当たりますし、それに父の仇でもあります。敵をよく知る事は勝ちに繋がりますから」
「叔父が仇……って、なんだか深い関係だったんだね」
 割りと緩い印象しか受けていなかったホルスだが、どうやら色々と背負って生きているらしい。人は見かけによらない、とはよく言ったものだ。
「セトは強大な神です。準備は良いですか?」
 ホルスが確認するのに、真達は無言で頷き、その横穴へと足を踏み入れていった。

 穴の中は入り口からすぐに斜面になっており、下へ下へと降りていく形になっていた。
 奥へ進めば進むほど、セトが起こしているらしい風が強くなり、それから感じられる威圧感も増していく。
「なんか、陰気な場所ね。暗いし、狭いし、さながら冥府って感じ?」
「そうですね……ホルスさんがいなかったら、真っ暗で何も見えません」
「デコちゃんがいればきっと平気なの。そのおでこでなんでも照らしてくれると思うな。ほら、赤鼻のトナカイ、みたいな感じなの」
「どうやらアンタは、私のジオンガの餌食になりたいみたいね」
「ちょ、ちょっと、ダメだよ。こんな所で暴れたら……」
「わかってるわよ! ミキ、ここから出たら覚えてなさいよ」
「あふぅ、ミキ、覚えてるのって苦手だな」
 背後で繰り広げられる言い合いを聞きながら、先頭を行く真は苦笑していた。
 その隣を飛んでいたホルスも、
「準備はいいか、なんて愚問でしたね。皆さん、随分余裕綽々で……」
 と零していた。
「平静を保ってられるのは良い事だと思うよ。まぁ、あんまり気が抜けすぎてても困るけど」
「ええ、ですが気負いすぎても力は発揮できませんし、良い状態なのかもしれません。……にしても懐かしいなぁ、この雰囲気」
「ホルスも前は誰かと一緒にいたの?」
 真に尋ねられ、ホルスはハッとくちばしを押さえる。
 何か言ってはならない事を言ってしまったのだろうか?
「き、聞かなかった事にしてください」
「……ミキもそうだけど、二人は何を隠してるの? って言うか、ホルスとミキはどこで知り合ったのさ?」
「うぅ、黙秘権を行使します」
 これ以上失言しない為か、くちばしをきつく結んだホルスからは、何も聞けなさそうだった。かと言って、ミキはホルス以上に何も教えてくれなさそうだし、結局真は何も知る事が出来ない様だ。
「いつかは教えてくれても良いんじゃない?」
「……いえ、きっとこれは自分から知らないとダメな事なんです。そう言う制約の元、私達はこの世界に特別な存在として現れたんですから」
「ホルスやミキからは何も教えてくれない、って事?」
「すみません……」
「まぁ、何か事情があるなら仕方ないけどさ……」
 多少残念ではあるが、この間、ミキは『消される』とか何とか言っていた気がする。それほどの危険をおしてまで、二人から聞く事でもないか、と自分を納得させた。


 洞窟を更に進み、風が強くなり始めた頃、風に乗って竜の声まで聞こえていた。
「……近いね」
「敵はもうすぐですね」
 先頭を歩いていた真とホルスが足を止め、後ろを振り返る。
「みんな、ここからは注意して。相手は相当強いらしいし、油断は出来ないよ」
「う、うん」
「わかってるわよ」
 雪歩とイオリの返事を聞いて、真は更に奥へと歩く。
 程なくして、開けた場所に出た。ターミナルが置いてあった部屋よりも一回りほど大きいだろうか。
 そこから吹きつけて来る風は既に暴風。息もし辛くなるほどだった。
 部屋の中心を見ると、闇に紛れる様に、漆黒の翼竜がそこにいた。
「……性懲りもなく戻ってきたか、死に損ないめ。余程父の後を追いたいと見える」
 翼竜が地面に足をつけると、風は止み、辺りが俄かに静かになった。
 その竜はホルスを睨みつけて、低く腹に響く声で喋った。
「私は諦めませんよ。貴方を、父の仇を討つまで」
「それで援軍を連れて来たと? ふっ、人間風情に何が出来る」
 真を見て笑った翼竜は、一つ大声で吼える。
「グオオオオオオオオオッ!!」
 壁に反響し、地震のような振動が辺り一面に伝わる。
「な、なんて大声……ッ!」
 慌てて耳を押さえた真達だが、それでもこの大声は暴力的なレベルだった。
 もう少し踏ん張りが利かなかったら、また洞窟の方へ押し戻されるほどだ。
「なめられたものだな!! 人間如きに媚び諂うとは、それでも貴様、神の端くれか!!」
「真さんには神を従えるだけの器があります。貴方も殺されたくなかったら、命乞いをしたらどうです?」
「囀るな! 良いだろう、そこまで言うなら貴様等全員、八つ裂きにして冥界にばら撒いてくれる!!」
 竜はもう一声鳴くと、再び羽ばたき始め、宙に浮いた。
「さぁ、アレがセトです。皆さん、頑張りましょう!」
「が、頑張りましょうじゃないよ! 何勝手に挑発してるのさ!?」
「私は本心を言ったまでですよ。来ますよ!」
 ホルスに注意する間もなく、セトの口から突風が吹き荒れる。
「きゃあ!!」
「い、イオリ!?」
 一行の中で飛び抜けて軽いイオリは、風に煽られ、そのまま洞窟の奥へと吹っ飛ばされた。
「デコちゃんの事は後回しなの! 今背を向けたら、やられちゃうよ!」
「わ、わかってる! ボクとミキで前衛を引き受けるから、ホルスと雪歩は援護をお願い」
「わかりました」「わ、わかった」
 陣形を組み、一行はセトへと立ち向かう。

*****

「これは……」
 地下街から出てきた春香は、その光景に言葉をなくした。
 窪んでいる。隕石でも落ちてきたかのようだった。
 これに似た光景を、一度どこかで見たような気がしていた。
 そう、アレは……。
「あずさって人の家の近くだったっけ。確か、千早ちゃんの魔法で林がこんな風になってた。と言う事は、これも千早ちゃんが?」
 だとすれば一足遅かったのだろう。
 見通しの良いこの場所に、千早どころか、人影は一つも見当たらない。恐らく、入れ違いになったのだ。
「まぁ、悔やんでも仕方ないわ。ここからどこに行ったか探さないと」
 地上には悪魔の姿すら見当たらない。春香は地下街に戻って情報収集する事にした。

 地下に戻ってすぐ、春香はとある悪魔に見つけられる。
「あ、アンタ」
「……ん? 誰よ?」
 深い緑の具足を着込んだ武士が春香に声をかけていた。
「やっぱり、妙な刺青はあるが、間違いないな。アンタ、ハルカだろ?」
「どうして私の名前を!?」
「警戒しなくていい。アンタ、千早を探してるんだろ?」
「……居場所を知ってるの?」
「いいや。だが、この辺りには居ない事は知ってる。どっちに行ったかってのもわかってる」
「なら、さっさと条件を教えなさい」
 こんな世の中でもギブアンドテイク。
 扱っている物は特異だが、春香も一応商人なのだ。その辺のルールは染み込んでいる。
 この悪魔が話しかけてきたのは、『千早の行き先』と言う情報への対価を求めたからだろう。普通の悪魔なら襲い掛かってくるものだが、この悪魔は話しかけてきた。と言う事は話し合いでも解決できるはずだ。
「条件ね。話が早くて助かるぜ」
「何がお望み? 私に出来る事ならある程度やるけど」
「俺を連れてけ」
「……は?」
 その条件はおかしな物だった。
「行く先にちょっと用事があるんだが、一人じゃ通りにくくてな。だから同行させて欲しいって事だ」
「……それだけで良いの? 別に、連れてくのは構わないけど、道中でアンタがどうなっても知らないわよ?」
「お前に心配されるほどヤワじゃないさ。で、どうなんだ?」
「……良いわ、連れていきましょう」
「よっし、交渉成立だな。俺はモムノフ。今後ともよろしくな」
 と言うわけで、春香には妙な道連れが出来た。

*****

 洞窟内に吹き荒れる突風の中、真達はセトを相手に苦戦していた。
「マハガルダイン!!」
「うわっ!!」
 竜巻のような物が真達の目の前に発生し、その風圧で壁に向かって思いきり吹き飛ばされる。真と雪歩は何とか踏ん張った物の、ホルスとミキは壁に背中を強か打ちつけた。
「思った以上に強いな……。雪歩、二人の回復を頼む」
「うん、任せて!」
 力強く頷いた雪歩はホルスとミキに駆け寄り、回復魔法を行使する。
 魔法を行使する度に悪魔に近付いていく雪歩。だが真はそれを止める事はなかった。
 どうやらセトは強大な相手の様で、手を抜いて勝てるとは思えない。
 雪歩の悪魔化は止めたいが、死んでしまっては元も子もないのだ。
「ゴメン、雪歩……。でもボクが必ず元に戻すから」
 痛む胸を押さえ、真は炎の剣を構えてセトに斬りかかる。
「無駄だ!!」
「ぐぅ!」
 だが、セトの羽ばたき一つで、真の進攻は押し止められてしまう。
 何か策がなければセトに勝つ事は出来ないだろう。
「どうしたら良いんだ……」
「諦めろ、人間。貴様等が神に勝つ道理などない。大人しくしているなら、一飲みにしてやるぞ」
「……諦める、だって?」
 その言葉を聞いて、真は喉を鳴らす。
 諦めるなんて事が出来るか。真は諦めを蹴飛ばして、重たい業を背負い、このボルテクス界を作り出したのだ。今更諦めるなんて事が出来るか。
 最後まで、最後の最後まで、足掻いて足掻いて、死んでも諦めるなんて事はしない。
「ボクは、絶対に諦めない!!」
 真の反骨心に火が灯った時、それに応えるかのように、その手に持つ剣の炎も猛る。
 元の鉄の刃だった頃とは比べ物にならないほどのリーチ。それほど強く、その剣は燃えあがっていた。
『我が主よ、我が名を呼べ』
「……だれ?」
『我は汝の守護にして、創造と破壊の二面を持つ神。我が名は輝く炎。我が名を呼べ』
「……輝く炎。君の、名前……」
 真に語り掛けてくるのは、剣。いや、炎その物。
 その声を聞いた途端、真の頭の中にあった開かずの引き出しから、一つ言葉が零れ落ちる。
『我が名を呼べ。我が名は――』
「ヒノカグツチ!!」
 真が剣を高く掲げてその名を口にした瞬間、洞窟の天井を穿ち、一つの閃光が降ってくる。
 何か輝く柱のような物だったが、それは真を直撃した。
「ま、真ちゃん!!」
 それを見て雪歩が泣きそうな悲鳴を上げる。
 しかし、閃光が収まった後、そこには確かに真がいた。どうやら無事な様である。
「これが、この剣の本当の力……。神殺しの剣、ヒノカグツチ」
「ぐぅ、この光……大量のマガツヒを感じる……っ!! 厄介な、やはりここで食い殺しておくか!!」
 セトが猛々しく吼える。それと共に恐ろしいまでの風が吹き荒れるが、目の前にいた真は少しも動じなかった。
「ボクはもう、誰にも負ける気がしない。すぐに片をつけるよ!!」
「人の身に余る言い草よ! 驕るなよ、小僧が!!」
「……ッ!! ボクは――」
 剣の炎がゴォと音を立てて、また一回り大きく燃えあがる。
 それが、巨大な翼竜の姿をしているセトを飲み込むほどの大きさになると、
「――女の子だッ!!」
 真は気合いと共に、それを打ち下ろした。
 剣はセトを頭の天辺から焼き切り、完全に両断する。
 断面からは大量のマガツヒが溢れ、それは真へと吸いこまれていった。
「ぐあ……あぁ……敗れると言うのか……神が、人間如きに……」
「言ったでしょう」
 崩れ逝くセトに、ホルスが返す。
「真さんはそれだけの器があるんです」
「ぐ……おぉ……」
 何の反論も出来ず、セトはそのままマガツヒの塊になって消えた。
 それを全部回収した真は、なんだか気味悪げにその様子を見ていた。
「こ、これって……」
「マガツヒです。心配ないですよ。利にはなっても害にはならないはずですから」
「な、なら良いけど……」
 赤黒い何かが自分の中に入っていく光景は、やはり見ていて気分の良い物ではなかった。


「ったく、酷い目にあったわ!」
 戦闘が終わった後、イオリが一行に合流していた。
「吹っ飛ばされて、壁にぶつかって気絶するわ、道に迷ってどっち行って良いかわかんなくなるわ、ゴロツキ悪魔には追いかけられるわ、散々だったわよ」
「そりゃ大変だったね」
「……まぁ、アンタ達よりは十分マシだったんだろうけどね。手伝えなくて悪かったわね」
 イオリはイオリなりに大変だった様だが、それでも真達を気遣ってくれた。
 いつもはケンカ調子のクセに、偶にしおらしくなる。そこがなんともおかしくて、真は笑って彼女の頭を撫でた。
「ううん、ありがとう、イオリ」
「ちょ、何すんのよ! 髪が乱れるでしょ!!」
 真の手をバシバシ払いながら、イオリは赤い顔をごまかした。
「じゃれるのは構いませんけど、ちょっと良いですか?」
「なに、ホルス?」
「向こうにまだ穴があったんですよ。入ってきたのとは真逆の方向なので、ちょっと気になったんですけど……」
 ホルスが指す先、確かに穴が開いていた。
 先ほどの先頭で偶然出来た、とも考え難いだろうか。穴はかなり奥まで続いているらしい。
 それに、どうやらまだ風が吹いている。
「……向こうに出口があるのかな?」
「どうするの? 行ってみる?」
「あ、危ない事はやめようよ。一度戻った方が良いよ」
 尻込みする雪歩。だが、興味が引かれるのも事実だ。
 風が通っている、と言う事は外に通じていると言う事。春香達と同じ道を行くよりは、別の出口を目指した方が有意義かもしれない。
「……行ってみよう。大丈夫、雪歩はちゃんと守るからさ」
「真ちゃん……」
 真に微笑みかけられ、雪歩はそれ以上何も言えなくなっていた。
 一行は奥の穴を進む事にした。


 穴の手前で、殿を任されていたホルスが一度、部屋を振りかえる。
「お父さん、仇は討ちましたよ」
 セトのいなくなったその部屋は、とても静かで、ホルスの小声はしかし、よく響く様だった。その声が今はこの世にいない父に届いたかどうかは知る術もない。
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テーマ : 二次創作 - ジャンル : 小説・文学

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