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真・菊地探偵事務所 二章 5

5 あなたよりもワガママに

「お、帰ってきたわね」
 雪歩を医者に見せ、二人はHRインフォメーションに戻ってきた。
 医者は男性ではなく、犬も飼っていなかった。そんな医者を選んだのも、律子の心配りだろうか。
 幸い、雪歩の身体にも特に異常は見当たらず、健常体と言う事で、薬か何か貰うわけでもなく、すぐに追い帰されてしまった。
 悪魔達が町の中を徘徊している中、医者は引っ張りダコで休んでいる暇もないのだと言う。律子の口添えがなければ、こんなに早く雪歩を診てもらえなかったかもしれない。
「ありがとう、律子。助かったよ」
「ご迷惑おかけしました」
 雪歩がペコリとお辞儀をするのに、律子はヒラヒラと手を振った。
「何もなかったならそれで良いわ。……で、これからの話だけど」
「貴女たち、まだGUMPに関わる気はあるの?」
 律子の言葉を継いで、春香が尋ねた。
 真は一度雪歩を見て、彼女の心配そうな表情に笑顔を返しながら、口を開く。
「ボクは、こうなったらトコトン付き合うつもりだよ」
「真ちゃん……」
「ゴメン、雪歩。君は反対するだろうけど、ボクはどうしてもこのまま全てが終わるとは思えないし、悪魔をどうにかしなきゃならないだろ? GUMPがあれば、なんとかなるんじゃないかと思うんだ」
「町にいる悪魔を、全部GUMPの中に入れるの?」
「それか若しくは、別の方法で悪魔を魔界に帰す事が出来るかもしれない。それを探したいんだよ。そうしないと、世界がめちゃくちゃになる」
 真の言葉を受け、雪歩は目を泳がせながら、しばらく考える。
「でも、真ちゃん……ううん、良いよ。真ちゃんが決めたなら、私もついてく」
「……正直、雪歩にはどこか安全な所にいて欲しいけど、ボクのワガママを聞いてくれるんだし、雪歩がそれで良いなら、ボクも何も言わないよ」
「じゃあ、二人ともGUMPを手放すつもりはないのね?」
 春香が尋ねるのに、真と雪歩は強く頷いた。
 それを見て、律子は穏やかに笑い、春香はため息をつく。
「残念ね。貴女たちが関わりたくない、って言うなら、私が貰い受けようと思ったのに」
「春香が、GUMPを?」
「ええ、それが事件の中心にあるなら、それを持っていれば関わった人たちに会えるんじゃないかな、ってね」
 春香の言葉を聞いて、一つ思い出す。
 そう言えば、春香は千早と言う娘と知り合いらしい。春香の言う『関わった人たち』と言うのは恐らく、千早だろう。
「この辺りでは、千早ちゃんの話は聞けなかったし、何か手がかりと言えば、悪魔関係しかないのよね。だったら、そのGUMPが手っ取り早いんじゃないか、ってね」
「そう言う事か。……でもゴメン。これを手放すつもりはないよ」
「ええ、それならそれで良いわ。私はそれが誰の物になっていようと構わない。ただ、その近くにいれば千早ちゃんに会えるんじゃないかって思う。それだけよ」
「……と言う事はつまり?」
「貴女たちについて行くわ」
 春香が平然と言ったその言葉は、衝撃の発言だった。
 情報屋は中立。どんな立場の人間にも、代価さえ用意されれば情報を渡し、いつでも事件を俯瞰するのが鉄則。自ら関わりに行く時は、情報を得るための手段でしかない。
 だが、今回はそれとは全く別だ。
「いいの、律子?」
「止めはしたんだけどね。まぁ、この娘が決めたなら仕方ないでしょ」
「と言うわけよ。よろしくね、真、雪歩」
「……あ、危ないですよ?」
「あら、雪歩に心配されるほど、落ちぶれちゃいないわ」
「うぅっ……」
 と言うわけで、また道連れが出来た。

「じゃあ、これからは悪魔をどうにかするために動く、って事でいいのかしら?」
「うん、構わないよ」
 現状の目的確認と、これからどうするかを決める為に、各々部屋の中の椅子に座った。
 真の目的は『プティーブンにGUMPを突き返す事』ではなく、『悪魔をどうにかする事』に変わっている。それを念頭に、情報屋律子は頭を捻って策を出す。
「……それなら、やっぱりプティーブンとプロデューサーを探すのが良いんじゃないかしらね。イオリが言うには、プロデューサーが悪魔召喚に関して、結構偉い立場だったって言うし、悪魔を送り返す方法についても知ってるんじゃないかしら?」
「でも、プロデューサーについては情報なし。今の所唯一の手がかりはプティーブンだけって事は、その人を頼るしかない、か」
 未だに居場所や安否すら知れないプロデューサー。
 こうなると、既に悪魔にやられてしまったのではないか、とも思えてしまう。
「プロデューサーって人、生きてるのかな?」
「どうかしらね。今はそんな事気にしていても仕方ないわ。とりあえず、私は情報屋としての仕事を全うするだけよ」
 そう言って、律子はポケットから何枚かの写真を取り出した。
「さっき、真達が医者に行ってる間に、有力筋から聞いてきた話だけど、この人がプティーブンを名乗っているらしいわ」
 写真を覗くと、子供を連れた女性が写っていた。
 長い髪、豊満な身体、同性から見ても綺麗な女性だった。
「あ、この人」
「知ってるの、真?」
「うん、昨日、廃ビルに向かう途中で見かけたよ。……でも、突然どこかに消えちゃって」
「消える……って、そのままの意味で取って良いのかしら?」
 今のご時世、その言葉が比喩とも言い難い。
 それが魔法を使える人間だったり悪魔が擬態しているようなモノならば、ありえない話ではないのだ。
 律子の確認に、真は素直に頷く。即ち、消えるとは言葉通りの意味と言う事だ。
「……と言う事は」
「昨日の爺さんが言ってた、悪魔の力を手に入れた人間、って事かしらね」
「昨日の爺さん?」
「律子の知り合いみたいだったけど?」
「あー、まぁその話は後でね。今はプティーブンについてよ。今、この人は、どうやら町外れの大きな家に住んでるらしいの。あの辺りは悪魔も多少うろついてるみたいだし、やっぱりただの人間ってワケではなさそうね」
「戦う事にはならなきゃ良いけど……」
「……まぁ、大丈夫なんじゃない?」
 律子の適当な気休めを受け、真と雪歩、そして春香はプティーブンと言う女性の元へ向かう事にした。

*****

 町外れには小さな林があった。小高くなった丘を覆う様に常緑樹が植えられ、今も緑を湛えている。荒んだ町の中のオアシスの様だった。
 その丘の上に、一件の家がぽつんと建っている。
 まるで町を見下ろすような形で建っているが、その家に住んでいる人物を、近所の人間は一度も見た事がないそうな。
 幽霊屋敷、とまで呼ばれたその家が遠くに見えてくると、真達は一息ついた。
「やっと見えてきたね」
「アレがそうなんですか?」
「そうみたいね。アレ以外にそれらしき建物はないし」
 周りを見ると、小さな民家は幾つかあるが、話に聞いたのは『大きな家』。
 あの丘の家に間違いないだろう。
「行きましょう。あの中にプティーブンがいるはずよ」
「……待ちなさい」
 制止する声。三人の中の、誰の物でもない。
 背後から聞こえた声に振りかえると、そこには千早がいた。
「千早ちゃん!」
「……春香? なんで、貴女がここに?」
「千早ちゃんに会いに来たんだよ」
「……悪いけど、春香と話している暇はないわ。……そこのサマナー」
 千早は真に向き直り、持っていたカードを掲げた。
「貴女もデビルサマナーね。バンナムの社長室で見たわ」
「ああ、確かにそうだけど……」
「なら、貴女も私の敵よ!」
「はぁ!?」
 唐突な物言いに、頓狂な声を上げてしまった。
 デビルサマナーが敵、と言う風にしか聞こえなかったが、それはあまりに乱暴な考え方ではなかろうか。
「悪魔は人に仇なす敵。それを操るデビルサマナーも同罪よ。大人しくするなら、楽に殺してあげるわ」
「誰がそんな……っ」
「待って、真」
 千早と真の間に春香が立つ。
 その視線は真っ直ぐに千早を射抜いていた。
「真は早く、あの家に行って来て」
「でも、春香だけ残していけないよ。あの千早って娘は……」
「わかってる。でもグズグズしてたら、それだけ悪魔の被害者は増えていくわ。一分一秒でも早く、この事件を解決しなさい」
 確かに春香の言う事ももっともだ。だが、目の前にいる友人を見捨てて何を成せというのか。
 しかし春香は胸中で別の事を考えている。なによりも今、春香がやらねばならない事は一対一で千早と話し、説き伏せて凶行を止める事。
 それには真と雪歩を早く幽霊屋敷に行かせたかったのだ。
 出来れば、真達も千早も傷つけたくはない。
「町中の悪魔をどうにかしてくれるんでしょ? 私だってちょっとは期待してるのよ?」
「……じゃあ、ミキを置いていくよ。流石に見捨てていくのは出来ない」
 言いながらGUMPを構え、ミキを呼び出した。
「ミキ、春香を守ってくれ」
「はいなの。……今度はしっかりやるの」
 元気な返事を返し、ミキは春香の隣に並んだ。
 これでなんとか、千早に対して抵抗力を得ただろう。
「見捨てていく……って、アンタね。私は別に、死ぬつもりじゃないわよ?」
「わかってるよ。でも万一って事もあるだろ。用心だよ、用心」
「まぁ、ありがたく受け取っておくわ」
 春香は真の善意を受け取り、ミキの頭に手を置いた。
「頼むわよ。私が危なくなったら身代わりになりなさい」
「ヒ、ヒーホー……」
「冗談よ。真に受けないで」
「ううん、ハルカ。ミキは、身代わりになるくらいのつもりで行くの。もう誰も失っちゃダメなの。真くんに悲しい思いをさせたくないの」
「……だったら、アンタも身代わりになる、なんて言わない事ね。誰が欠けてもダメってんなら、アンタも欠けないように頑張りなさい」
「ヒーホーなの!!」
 そんな一連の様子を見て、千早はどうして良いか迷っていた。
 デビルサマナーである真は倒したい。
 だが、春香は……。
「春香、そこを退いて。私は貴女と戦いたいわけじゃないわ」
「私も、千早ちゃんと戦いたいわけじゃないよ」
「なら……っ!」
「でも、そんな怖い顔をした千早ちゃんを放っておけないよ」
 そう言われて、千早は更に眉間にシワを寄せる。
 鋭い眼光に睨まれながらも、春香もミキも物怖じしない。真っ向から対し、睨み返す。
「真、早く行きなさい」
「う、うん……。すぐに戻ってくるから、待っててよ!」
 後ろ髪引かれながらも、真は幽霊屋敷を目指して走っていった。
 この時は真も高を括っていたのだ。どうやら知り合いである春香と千早。その二人が殺しあうような事はない、なんて甘い考えを持っていたのである。
「くっ、待ちなさい!」
「千早ちゃんの相手は私だよ」
 真を追いかけようとする千早を制して、春香が間に立つ。
 千早はどんどん遠くなっていく真の背中を見ながら、また喉を鳴らした。
「春香……本当に私を止められると思っているの?」
「そうじゃないと、こんな事しないよ」
「それは思い違いだわ。私は力を手に入れた。普通の人間である貴女に止められるわけがない!」
「だとしても、退くわけにはいかない。ガラじゃないけど、ここを通りたくば私を倒していけ、ってね」
 両手を広げ、行く手を阻む春香を前に、千早は一度、カードを掲げた。
 このカードはペルソナの力を示したカード。これを使う事によってペルソナを行使する事が出来る。
 だが、千早はその力を行使する前に、また口を開く。
「春香は、私を足止めしてどうすると言うの?」
「あわよくば、千早ちゃんの考えが正せれば良いな、って」
「……正す? 私が間違ってるって言うの?」
「うん、間違ってるよ」
 千早の目的も動機も知っている。
 弟を悪魔に殺されたから、悪魔に関わる人間を殺したい。
 それは明らかな間違いである。
「どんな理由であれ、人を殺すのは良くない事だよ。寝覚めなんて最悪なんだから」
「……春香に何を言われようと、私は弟の仇を討つわ。これで最後よ……退いて」
「イヤ」
 端的な反抗に、千早はまた喉を鳴らす。
 だが、次に発せられるのは進攻の雄叫びだった。
「イルルヤンカシュ!!」
 千早の呼び声に答え、カードが淡く輝いて、青い炎を纏った大蛇を召喚する。
「来るわよ」
「わかってるの」
 春香とミキは、攻撃に備えて身構える。
 ミキはともかく、春香は本当に普通の人間だ。悪魔に対してそれほど抵抗力を持たない。一撃でも何か食らえば、即死亡だろう。
 だとすれば、相手の行動を注意深く観察し、全力で逃げまわるしかない。
「春香なら……春香なら私の事をわかってくれると思ったのに!」
「わかるよ! だから止めたいんじゃない!」
「わかってない! 春香は私の何もわかっちゃいない!」
 首を振り、目を伏せ、千早はイルルヤンカシュを操る。
 大蛇は大きくうねり、大きな顎をこれでもかと開けて二人に襲いかかる。
 間一髪でその噛みつきを回避した春香とミキ。だが、二人とも逆方向に逃げてしまい、上手く散らされてしまった。これで春香とミキの連携は取り難くなった。
 イルルヤンカシュは低く唸り、ミキを睨みつける。
「ミキ! 大丈夫!?」
「ミキは平気なの! ハルカは自分の事だけ気にしてれば良いの」
「あんなふざけたナリで良く言うわ……」
 とは言ってみたものの、確かに春香に他人を気遣っている余裕なんかない。
 イルルヤンカシュの尻尾が大きく振れれば、また一撃必殺を回避する為に精神を削らないといけないのだ。
「どうしたものかしらね……」
 事態は確実な劣勢。それも絶体絶命と言わんばかりだ。
 形成逆転しようにも、力技では無理、更に策にも乏しい。万事休すである。
「千早ちゃん! 話を聞いて!」
「うるさいうるさい! やっぱり勘違いだった! 春香は私の事をわかってくれると思ったのに! 私は春香の事信じてたのにっ!!」
「心を閉ざさないで! 私の言葉を聞いて!」
「良い娘ぶるのもいい加減にして! 人を殺すのは良くない? どの口が言うのよ、人殺しがっ!!」
「……っ!」
 千早の言葉に、春香は喉も胸も詰まった。
 これ以上、言葉が出なかった。
 千早もそれに気付いたのか、一瞬口を抑えたものの、すぐにカードを構えなおす。
「私はやめるつもりなんてサラサラないわ。私を止めたければ、殺すつもりでかかってきなさい!」
「……出来ないよ。出来るわけない……」
「だったら、黙ってそこを退きなさい!!」
 千早がカードを掲げると、イルルヤンカシュは大きく口を開け、空に向かって吼える。
 すると、道の真ん中のとある一点、この場にいる全員のほぼ中心付近に火花が散る。
「危ないの、ハルカ!」
「えっ!?」
 イルルヤンカシュの隙を突いて、ミキが春香に飛びつく。
 だが、その行動もイルルヤンカシュの尻尾で弾かれ、ミキは地面を転がった。
「さようなら、天海さん」
「ち、千早ちゃ……」
 次の瞬間、大爆発が起こる。

*****

 一方、真は幽霊屋敷に辿り着いていた。
「鍵が開いてる……入ってみよう」
 玄関を容易く突破し、中に侵入する。
 幽霊屋敷の中は、その呼称に似つかわしくないほどに小奇麗で、生活感の溢れる家だった。
 今も誰かがこの家に住んでいるようだが……。
「プティーブンさん、なのかな?」
「どうだろうね。とりあえず、中を調べてみよう」
 真は土足のまま家に上がりこみ、それを見て雪歩も、申し訳なさそうにしながら真の後に続いた。

 中は、外観の大きさを裏切らず、とても広かった。
 玄関から伸びる廊下の長さも、廊下に沿って作られているドアの数も、この家の大きさを物語っている。どうやら二階もあるようだが、それを全部調べるのはちょっとした冒険になりそうだった。
 一階の廊下をしばらく進むと、奥から子供の声が聞こえてきた。
「……雪歩、聞こえた?」
「う、うん。女の子の声でしたね」
 頷きあって、声が聞こえてきた部屋のドアに手を掛ける。
 固唾を飲んで、手に力を込めた時。
「あら、そちらから来てしまいましたか」
 背後から声が聞こえた。
「私のほうから会いに行くつもりでしたけど、また迷ったりしたら笑えないものね。……警戒しなくても良いですよ。私は貴女の敵ではありませんから」
「ぷ、プティーブンさん、ですか?」
「……ええ、仮の名、ですけど」
 何時の間にか後ろに立っていた女性、プティーブンは柔和な笑みを浮かべて答えた。

 不意打ち、と言う先手を受けた真は、こちらから質問をする機会を失ってしまった。
 仕方なく相手のペースに合わせ、案内された広間で椅子に座っている。
「……貴女がたが来た理由は、大体察しています」
 テーブルを挟んで対面に座るプティーブンが、静かに話し始めた。
「私が貴女にGUMPを送った理由、ですよね?」
「……それ以外にも聞きたい事は山ほどあるけど、まずはそこからだね」
 毅然とした態度で対応する真だが、その隣で雪歩がオドオドビクビクしているので、あまり様にはならない。
 それでもプティーブンは、それを無視して話し始める。
「この町に悪魔が現れるようになった理由はご存知ですか?」
「バンナムの社長が悪魔を召喚したって聞いてるけど」
「それも間違いではありませんが、それは原因であって理由ではありません。バンナムの社長、高木には願いがあるのです。彼の養子である音無小鳥と言う女性を助ける、と言う願いが」
「悪魔を召喚するのと、人を助けるのにどういう関係が?」
「小鳥さんは悪魔によって魂と身体を分離され、身体は崩れ落ちました。社長は失われた身体を取り戻す為に、受胎と言う儀式を行い、世界全てを作り直そうとしているのです。そのためにまず、町を悪魔で埋め尽くし、異界化を進めているのです」
 儀式、異界化、普段ならあまり信用できるような単語ではないが、今のご時世そうも言っていられない。
 真はどこまで信じて良いのか量りつつ、慎重にプティーブンの話を聞いた。
「最初は研究員も賛同し、研究を続けていましたが、ある時、社長と研究員が対立し、研究員は社長の手の者にみんな、殺されてしまいました。プロデューサーさんはその最中、社長による町の異界化を抑える為に、GUMPを使って、召喚機であるターミナルにロックをかけました」
「……それを、社長の手の届かない所に置くために、ボクへと送りつけた、と」
 プティーブンは無言で頷いて肯定する。
「何故、見ず知らずのボクに?」
「プロデューサーさんは、貴女に何か力を感じていました。途方もない可能性、だとか」
「ボクには何の力もないよ。しがない探偵だ」
「いいえ、私はプロデューサーさんを信じます。貴女には何かがある。状況を打開できるような、何かが」
 妄信的なセリフに、真はため息をついて頭を掻いた。幾ら否定してもいたちごっこだろう。
 仕方ないので、話題を変える事にする。
「貴女はプロデューサーって人の事を良く知ってるみたいですが、知り合いだったんですか?」
「ええ、よく知ってます。私もあの研究所にいましたし、今はプロデューサーさんの遺志を継いで、行動しているのですから」
「……遺志って事は……」
 真の問いかけに、プティーブンは目を伏せるだけだったが、答えとしてはそれで十分だった。プロデューサーはもう、この世にいない。
 それを受けて、真はGUMPを取り出した。
「同席して欲しい悪魔がいるんだ。呼び出しても良いかな?」
「ええ、どうぞ」
 悪魔召喚にも何の警戒もしない。
 それだけの覚悟があるのか、それとも、どんな悪魔を呼び出されても対応するだけの力量を備えているのか。
 どちらにしろ、そもそも今の真にプティーブンを攻撃する意思なんてないが。
「イオリ、出てきて」
「……ん? なによ?」
 GUMPの引き金を引き、イオリを召喚する。
 イオリは周りを見回した後、ため息をついた。
「何度言わせるのよ、ボケサマナー! マグネタイトの無駄使いはやめなさいよね!」
「無駄使いじゃないよ。君にも聞いて欲しいんだ。プロデューサーがどうなったか、気にしてたろ?」
 真とイオリが会ってから、イオリはプロデューサーの事を時々口にしては、その人の事を心配していた様に思える。
 イオリはその口調や態度に隠して、内に優しい心を持っている、と真は思っていた。
「プロデューサーがどうなったか、わかったの?」
「この人が知ってる」
 真がプティーブンを指すと、イオリも彼女を見る。
 プティーブンは軽く会釈するが、イオリは眉間にシワを寄せた。
「あ、この女!」
「……知ってるの、イオリ?」
「顔だけね。プロデューサーが携帯電話だか言う機械に、写真を保存してたわよ。それを見せられる度に話が長くなって仕方なかったわ」
「ええと……つまり、プロデューサーとプティーブンは……?」
 今の話で、大体の人間関係が把握できた。
 つまり、プロデューサーとプティーブンは良い仲で、イオリはプロデューサーに懐いていて、それでプティーブンとイオリは初対面であり、プロデューサーを挟んだ関係にあった、と。
「……なんだか、面倒な構図だね」
「はわわ、三角関係ですぅ」
「違うわよ!! 別に私はプロデューサーの事、なんとも思ってないし、こんな女の事も全っ然興味ないし、私には関係ない事よ! ただ、あのボンクラが私を放っておいて、何してるのかちょっと気にしてただけで、別にそういう――」
「はいはい、わかったから」
 イオリを遮って、真が会話を切り上げる。
 手だけでジェスチャーして、プティーブンに話の続きを促した。
「……プロデューサーさんは、正確には死んではいません」
「死? 死んだってどう言う事!?」
「良いから、ちょっと黙ってて」
「彼は今、小鳥さんと同じように魂を抜き取られた状態にあり、身体は仮死状態になっているのです。このまま放置しておけば、いつか身体は朽ちてしまうでしょう」
 魂と身体を分離しながらの活動は不可能。無理がピークに達すると、身体が土に還ってしまうと言うのだ。
 これまた信じがたい話ではあるが、簡単には嘘だと言えないだろう。
「じゃあ、貴女はプロデューサーの魂を取り戻す為に、バンナムから離反したんですか?」
「いいえ、そうではありません。私の目的はこの町に、世界に平和を取り戻す事です。それは即ち、悪魔を魔界へ押し返す事。プロデューサーさんの魂は魔界にあると聞いています。それを取り戻している時間は……惜しい」
「じゃあ……貴女はプロデューサーを見殺しにする、と?」
「……はい」
 答えを聞いて、真の耳元でバチリ、と音がした。
 気が付くと、イオリがプティーブンの目の前で止まっている。
「もう一度言ってみなさい」
「……私はプロデューサーさんを見殺しにしてでも、平和を取り戻します」
「それが……それがあの人の好きだった女のセリフなのっ!?」
「これはあの人が望んだ事です! 自分の命を懸けてでも、あの人が成そうとした事です! だったら、私はそれをやり遂げる! どんな手を使っても、この世に平和を取り戻して見せますっ!!」
「……っ! だったら……っ!」
 イオリはそれ以上言葉を続けず、真の隣に戻った。
 その様子を静観していた真も、ため息をついて口を開いた。
「ボクも貴女の言ってる事に、おおよそは賛同できる。この町の悪魔はどうにかしたいし、世界の平和ももっともだ」
「でしたら……」
「でもボクは、やる前から何かを諦めたりしたくない。貴女よりワガママな生き方をしてみたいんだ。仲魔が辛い顔をしていたら、その原因を取り除く努力ぐらいはしてあげたい。成し遂げられれば、なお良い」
「あまり欲張ると、何も成せませんよ。二兎追う者は、一兎も得ません」
「欲張りだとは思ってないよ。ただ、何も諦めたくないんだ。一石二鳥を狙いたい主義でね」
 そう言って、真は笑いながら立ちあがる。雪歩もそれに続いて立ちあがった。
「どこへ行くんです?」
「あまり長居もしてられなくてね。落ち着いたら、また話を聞きに来るよ。悪魔をどうにかする方法、知ってるんでしょ?」
「……では、手伝ってくれるんですか?」
「それはどうかな。依頼料も支払わない依頼主に、従う義理はないからね」
 真の去り際、彼女の傍を飛んでいたイオリがプティーブンに向けて舌を出していた。

「私よりも、ワガママに……か」
 自分の手を見詰め、あずさは真の言った言葉を繰り返していた。
 当然、あずさにだってプロデューサーを取り戻したい気持ちはある。だがそれよりも優先すべき事がある、と思い続けてきた。
「私も、ワガママになって良いんでしょうか、プロデューサーさん……」
「うっうー」
 宙を見上げるあずさに、やよいが擦り寄ってきた。
 あずさはいつもの様に彼女の頭をなで、抱き寄せる。
「……あら? やよいちゃん、貴女、ポーチはどこへ置いてきたの?」
「うっうー」
 いつもやよいが首から下げていたポーチが、消えていた。
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