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真・菊地探偵事務所 二章 4

4 悪魔の力

 真はミキと名乗る雪だるまの先導で、バンナムを目指していた。
『あんまり詳しくは話せないけど、ミキを信じて欲しいの!』
 コミカルな顔をしながら、そんなセリフを真面目に言われて、真はどうして良いやらわからなくなり、とりあえず雪歩を助けるためになりそうなら、少しの間だけでもミキを信じても良いか、と思ったのだ。
「ホントに雪歩はバンナムにいるんだろうな?」
「大丈夫なの、ミキを信じるの!」
 妙に自信満々のミキの後に続き、真は一直線にバンナムに向かった。

*****

 バンナムの正面まで来た頃には、真もミキもかなり疲れ果てていた。
 ここまで走ってきたから、と言うのもあるが、それ以上にかなり遠回りをしたからである。
「まさか、町の中に、あんなに悪魔がいるなんて……」
「ヒーホー……」
 町を走りまわっている途中、そこかしこで色んな悪魔を見た。
 アミとマミが連れていたインプや、ピクシーのイオリ、雪だるまのミキのように小型なモノがほとんどではあったが、中には人の背丈を越すほどのものなど、かなり大きな悪魔も召喚されているらしい。
 町の中は既に、様々な悪魔が闊歩する地獄の様だった。
 代わりに人間の姿はあまり見かけなかった。
 どこかに避難しているのか、若しくは、あまり考えたくはないが、全滅と言う事もありえるかもしれない。
「どうしてこんな事になったんだ……。GUMPがあるからか……?」
「それは違うの。原因はこの会社の社長なの」
「バンナムの社長? その人がどうかしたの?」
「ヒーホー……あんまり詳しい事は話しちゃいけない決まりなの……」
「うーん、よくわからないけど、とりあえず今は君を信じるよ」
「ありがとなの!」
 どこか憎めない顔をしているミキに心和ませつつ、真は気を引き締めてバンナムの扉を開けた。

 バンナムの中も、町と同じように人の姿が見当たらなかった。
「……結構な従業員がいたはずだけど」
「とりあえず、先に進むの」
「あ、ちょっと待って」
 先に行こうとするミキを引きとめ、真はGUMPを構え、イオリを召喚した。
「何か用?」
「イオリはバンナムで召喚された、って言ってたよな。だったら、中を案内してくれ」
「案内? ……ここ、バンナムなの?」
 イオリはグルリと辺りを見回し、場所を確認する。
 だが、その後軽く首を振った。
「あー、ダメだわ。全然見覚えないもの」
「えっ!? だって、イオリはここに召喚されたんだろ?」
「知らない物は知らないのよ。ここで召喚されたって言っても、動き回れたのは狭いスペースだけだし」
「……役に立たない」
「なんですってぇ!?」
 いきり立ったイオリは、真の顔に飛び付いて皮膚やら髪やらを引っ張り始める。
「いたたた、や、やめろ! こら!」
「アンタが失礼な事言うからよ! そんな事言うのはこの口か! この口か!!」
「ひぎぎぎ、ほ、ほんほろころらろ!!」
「何言ってるかわかんないのよ! ちゃんと喋りなさい!」
「おはへはふふぃふぉひっはふはら……ひはひひはい!」
「じゃれるのはその辺にしておくの」
 意外と一番冷静だったミキが、二人を制止した。
 気の抜けた顔に一括され、イオリも真も毒気を抜かれて、互いに離れた。
「この中、悪魔の気配がいっぱいするの。もしかしたら戦う事になるかもしれないの」
「アンタ新顔ね? センパイにご挨拶は?」
「必要ないと思うな。デコちゃんは覚えてないかもしれないけど、ミキは良く覚えてるよ」
「で、デコ……っ!? アンタ、そこに直りなさい、成敗してやるわ!」
「イオリ! 騒いだら悪魔に気付かれるって」
「わかってるわよ!」
 真に止められ、イオリはその手の平に溜めた電撃を収めた。
 イオリは度々、電撃がどうのこうのと言っているが、どうやらその通り、電気を操る事が出来る悪魔らしい。
 ミキの方は見た目から推察するに、氷を操る悪魔だろうか。
 インプを氷漬けにしたのも、どうやらミキのようだし、間違っている見当ではあるまい。
「とにかく、ここからは慎重に行こう。ミキ、どっちに行ったら良い?」
「社長室に行くの。きっとそこにいるはずなの」
「わかった」
 こうして一行は社長室を目指して歩き始めた。

*****

 幾つか階段を昇り、社長室にほど近くなった頃。
「……流石にここまで来ると、警備も厳重だな」
 使役されているであろう悪魔が、廊下を塞いでいたのだ。
 この廊下を渡らなければ、社長室には辿り着けない様になっているらしいのだが、真としてはあまり荒事を起こしたくはない。
「突破しちゃえば良いと思うな。ミキたちなら出来るの」
「バカ言うんじゃないわよ。騒ぎを起こして敵に気付かれたら面倒でしょ」
「……デコちゃんだって、さっき騒いでたの」
「なに、ケンカ売ってる?」
「二人とも静かに!」
 ピリピリし始めた二人の悪魔を鎮めつつ、真は物陰から悪魔の様子を窺う。
 見る限り、鳥の頭、羽を持っている人型の悪魔が三匹、周りの様子を窺っている。
「相手の力量も測りかねるな……。どうしようか」
「アンタの持ってるGUMPを起動させてみなさい」
「……悪魔はもう召喚できないよ?」
「わかってるわよ! 良いから、言う通りにする!」
 イオリの剣幕に圧され、真は言われた通りにGUMPを起動させた。
「その中にデビルアナライズ、ってのが入ってるでしょ?」
「アナライズ……? あ、これか」
「ターゲットをあの悪魔に向けて、引き金を引きなさい」
 イオリに言われて、真はGUMPを悪魔に向け、引き金を引く。
 すると、GUMPのディスプレイに悪魔の情報が表示された。
「うわ、なんだこれ」
「それがデビルアナライズ。プロデューサーが作ってた、悪魔のデータベースよ。私も協力したんだから、信頼できるデータが入ってるはずだわ」
「……うん、まぁ信用しとく」
 微妙に頷きながら、真はディスプレイを覗く。
 目の前にいる鳥っぽい悪魔はどうやらアンドラスと言うらしい。
「……レベル8って強いの? 弱いの?」
「言いたくはないけど……私がレベル2、この雪だるまが8だったはずよ。このレベルもかなり正当に審査されたモノだから、信頼できる数値よ。向こうが三匹もいる事を思うと、強行突破は難しいかもね」
「大丈夫なの! ミキは強いの!」
「強そうに見えないのよ! ゆっるい顔して、説得力が欠片もないわ!」
「だから、二人とも静かに……」
 二人をなだめながら、真は考えを巡らす。
 確かに、数字的な意味でいけば、明らかにこちらが劣勢。
 だが、勝負は数だけでは決まらない。
「不意打ちを仕掛ければ、なんとか勝てないかな?」
「……まぁ、今の所気付かれてはいないみたいだし、奇襲は出来るだろうけど……」
「いけるの。大丈夫なの」
「アンタ、さっきからそればっかりね」
「ミキを信じるの!」
「……やってみよう。ここで手をこまねいていてもしょうがない」
 真は二人に、簡単な作戦を伝えた。

 三匹固まりながら、警備に当たっているアンドラス。
 忙しなく辺りを見回しながら、警戒を怠る事はない。
 そこに一匹のピクシーが飛んできた。
「……ん? なんだぁ、おめぇ」
「こんな所まで入りこんで来てんじゃねーよ」
 三匹のアンドラスが全員ピクシーに注視し始めると、ピクシーは廊下の天井にある蛍光灯に電撃を走らせた。
 蛍光灯は一瞬まばゆく光り、そのまま割れる。
「ぐぉ!」
「目がぁ、目がぁ!!」
 閃光をまともに見てしまったアンドラス達は、一瞬目がくらみ、視界を失う。
「今だ。ミキ!」
「ヒーホー!」
 真の合図でミキがアンドラスに向けて氷を放つ。
 鋭く尖った氷はアンドラスを深々と刺し、更にそこから凍りつかせる。
 だが、アンドラスの一匹は羽を忙しなくはためかせ、氷を打ち落としていた。
「っち、侵入者か! だ、誰か――」
「させるか!」
 助けを呼ぼうとしたアンドラスに向けて、真は律子から授かった剣を抜き放ち、悪魔に向けて突き刺す。
 貫かれたアンドラスは、そこから燃え上がり、そのまま絶命した。
 アンドラスの死体からは、灰色の宝石が出てきて、それはそのまま、GUMPに吸い込まれる様に消えた。
「……なんとかなったな」
「そうね。でも……私の虎の子がこんな所で消費されるなんて」
 イオリの使った魔法は、彼女が言うには一度しか使えないらしい。次に使うためには長い休憩が必要なのだとか。
「社長が強力な悪魔とか連れてたらどうするのよ?」
「その時はその時さ。まずはこの勝利を喜ばないと」
「楽天的……まぁ、別に良いけど。さぁ、マグネタイトも拾ったんだし、さっさと奥に行くわよ」
 イオリが急いて、先に飛んでいくのに続き、真とミキも廊下を進んだ。

*****

 社長室と書かれたプレートの張られた扉。
「ここだね」
 その前に立ち、真は唾を飲みこむ。
 なんだかとてつもない威圧感が感じられる。
 中にはとんでもない悪魔がいるんじゃなかろうか、そんな気さえする。
「ビビってたって始まらないわ。入るわよ!」
「うん……」
 イオリに鼓舞され、真はドアノブを握る。
 少し間を置いた後、意を決してドアを開けた。
「……おや、手間が省けたな」
 中には大きめの机が一つ、そしてその背の壁に窓ガラスが一面に張られていた。
 机にはどうやら一人の男性が座っているらしい。
 逆光になって顔は良く見えないが、社長室にいるとなると……
「貴方が、バンナムの社長か」
「そうだ。私が社長、高木だ。そう言う君は菊地くんだね? こちらから出向こうかと思っていたのだが……」
「貴方の手下に何度もお会いしましたけどね」
 真は緊張を解かず、その手は剣の柄に添えたまま、扉を背にして立つ。
 今の真たちの戦力は、何が来ても安心できる程度とは言えない。
 すぐに逃げ出す準備、と言う事でドアの近くに陣取ったのだ。
「そう構えなくて良い。私は交渉しようと言うのだよ」
「交渉……?」
「ああ、そうとも。アミくん、マミくん」
「はーい」
 子供の声が聞こえ、そちらを振りかえると、何度も真に襲いかかってきた双子と、縛られた雪歩がそこにいた。
 更に、雪歩を狙う様に、悪魔が立っている。少しでもおかしな事をすれば……という事か。
「……望みはなんです?」
「私の望みは一つ、GUMPだよ。それさえ渡してくれれば、この少女はこのまま返そう」
「……本当ですね?」
 そう言って真は、GUMPを社長に見せた。
「ちょ、アンタ、まさかホントにGUMPを渡すつもりじゃないでしょうね!?」
「仕方ないだろ、雪歩の為だ」
「あの娘の為だからって、そんな……」
 イオリの言葉には耳を貸さず、真はGUMPを差し出したまま、社長に一歩近付いた。
「雪歩を放してもらう」
「まずはGUMPを寄越したまえ」
 今の所、人質を取っていて有利なのは社長。
 GUMPは取り戻せるが、雪歩の命は失ってしまうと、取り返すと言う事は無理だ。
 ここは素直に従っておいた方が……。
 真がもう一歩近付いたその時。

 突然、爆音が鳴り響き、真から見て右手にあった壁が丸ごと吹き飛ばされる。
 木っ端微塵にされた壁は、瓦礫になって辺りを転がり、真は反射的に頭を隠した。
「な、なんだ!?」
「何事だ!?」
 驚いたのは社長も一緒らしく、立ち上がって警戒する。
 アミとマミ、悪魔も社長の前に立って、彼を守ろうとしていた。
「……今だ」
 爆発による煙が収まらない中、真は雪歩に向かって走り、その身柄を確保する。
「雪歩、大丈夫か?」
「……う」
 どうやらまだ気を失っているらしい。だが、息はある。
「真! 大丈夫なの!?」
「ああ! イオリ、ミキ、すぐに逃げるぞ!」
「りょーかいなの!」
 雪歩を担いだ真は、そのままドアまで駆けだし、外を目指した。
「あ! アイツら、逃げちゃうよ!」
「どーする、しゃちょーさん!?」
「……今は逃がすとしよう。それよりも、この爆発は……」
「貴方が、高木。この事件を起こした張本人」
 真がドアに辿り着いた頃、その場にいた誰でもない声が聞こえた。
「……壁を壊したヤツか……? 何者なんだ?」
 煙がだんだんと晴れ、その姿が見え始める。
 壁をぶち抜き、社長室に入りこんできたのは、背後に悪魔のようなモノを従えた少女だった。
「私は如月千早。貴方を……悪魔を呼び出した犯人を、殺すっ!」
 千早と名乗った少女は、その手に持っていたカードを掲げる。
 すると、彼女の後ろに待機していた、蛇のような悪魔がうねりながら吼える。
 すると次の瞬間、部屋の中心付近で火花が散った様に見えた。
「……マズイ! イオリ、ミキ、逃げるよ!」
「え? あ、うん」
 真たちはすぐに部屋から出て、全速力で走る。
 その後、社長室では大爆発が起こった。

*****

 なんとか無事にバンナムを出る事が出来た真たち。
 建物の外へ逃げ出し、安全な所まで来た所で、へたり込む様に倒れた。
「ふぅ……なんとか、逃げられたな」
「そうね、あー、もうなんでこんな事になったのよ!」
「疲れたの……おにぎり食べたいのー!」
 口々にぼやきながら、その呼吸を落ち着ける。
 何せここまでかなり強行軍だった。疲れもたまっているだろう。
 これだけ濃い一日を過ごしたのは、真にとってここ最近、ない事だった。
「はぁ……はぁ……とにかく、ここも完全に安全とは言えないし、一度事事務所まで戻ろう。雪歩をちゃんと寝かせられる場所にいかないと」
「そうね、一度落ち着きたいわ」
 と言うわけで、一行は事務所のある雑居ビルを目指して歩き始めた。

*****

 ――のだが。
「まさか、こんな事になってるなんて……」
 ビルの手前までやって来て、その外観を見て、愕然とする。
 ビルはほとんど悪魔に占拠され、軽く破壊行動までされた後らしい。なんとも痛々しい姿を晒していた。
 これでは中がどうなっているか、わかったものではない。
「さっき社長が『出向こうかと思ってた』とか言ってたみたいだし、その所為かもしれないわね」
「……事務所はダメか……。じゃあHRインフォメーションに行ってみよう。そこなら情報ももらえるかもしれないし」
「あのリボンの女がいる所に? ……気が乗らないわ」
「文句言うなよ。一度は身を隠して休まないと。疲れてるし、雪歩がこんな状態の今、悪魔に見つかったりしたら、最悪全滅しちゃうよ」
「わかってるわよ!」
 イオリが舌を出すのにカチンと来ながらも、怒る気力もないので、真は雪歩を担ぎなおしてHRインフォメーションを目指した。

*****

 HRインフォメーションがあるビルの付近は、あまり悪魔の被害もないらしく、多くの民間人が非難してきていた。
 通りには真が会ったような宗教勧誘の人がチラホラ見えたり、傷を負って倒れていたり、自棄になって火事場泥棒を始める輩まで現れ始めていた。
「うわ、最悪だな……」
「人間って醜いわよねぇ。私みたいに高貴さを持てないものかしら?」
「高貴……ねぇ」
「なによ?」
「別に?」
 イオリが睨みつけてくるのを受け流しつつ、真はビルの階段を下った。
「デコちゃんはコウキだから、そんなにおでこが光ってるの?」
「よーし、じっとしてなさい。私が今、成敗してあげるわ」

 地下にも生き残った人たちが溢れており、妙な息苦しさを感じた。
 狭い空間の至る所に人間がぐったりと倒れこんでいるのだ。なんだか、見ていていい気分にはなれない。
 そんな事を考えながら、HRインフォメーションのドアを叩く。
「あら、良かった、無事みたいね」
 顔を出したのは律子。
 快く一行を迎えてくれた。

 雪歩をソファーに寝かせ、簡単な食事を終えた後、真はバンナムであった事を、律子と春香に話した。
「如月……千早。その娘はホントにそう言ったの?」
「うん、確かに聞いたよ」
 社長室の壁を破壊して現れた少女。彼女は確かに如月千早と名乗った。
「その名前、聞いた事あるわ。春香の知り合いよね?」
「うん……昔ちょっとね。最近まで連絡取れてたんだけど、急に音信不通になって……。それに弟さんが謎の爆発事故に巻きこまれた、って聞いた事もあったし」
 ここまで来て、宗教勧誘の人が言っていた事にも信憑性が出てきている。
 最近の不可思議な事件が悪魔によるものだと。
 確かに、考えてみれば悪魔は常識外の力を持っている。だとすれば、そんな不可思議な力を使って、不可思議な事件を起こすのも可能なのではないか?
 食人鬼事件も、謎の爆発事件も、公園の殺人も、学校凍結も、全部悪魔の仕業なら、納得できそうだった。
「ボクが見たあの娘は、なんか尋常じゃない雰囲気だったけど……まさか、悪魔の起こした事件を社長の所為にして、敵討ちか何かのつもりなのかな?」
「……悪魔を呼び出したのが社長なのだとしたら、完全に的外れってワケでもないけど、それって『敵討ち』と呼べるのかしらね……」
 召喚された悪魔のほとんどは、召喚士の手を離れ、自らの身体を維持するために、人間を襲ってマグネタイトを得ようとしている者がほとんどだ。
 自由意思を持っている彼らの引き起こしたであろう事件に、弟が巻き込まれたからと言って、社長が弟の仇になる、とはどうにも間違った考えの様に思える。
「まぁでも、社長はその娘が起こした爆発にやられちゃったんでしょ? だったら、その娘も仇を討ててめでたし、って事じゃない? 会いに行って見たら、春香」
「うん……」
 神妙な顔をして、春香は頷いていた。
「それにしても……社長は本当にアレで死んだのかな?」
「何? 実際に見てきた真が疑ってるの?」
「なんだか嫌な予感がするんだ。社長の周りにはアミとマミ、それに悪魔もいたし、もしかしたら生きてるんじゃないか、って」
「……考えられなくもないわね」
 真の言葉に、律子が顎を抑えて考えこむ。
 今まで会った悪魔は、総じて生命力が高い。
 あの爆発においても、悪魔を盾にすれば社長が生き残っていてもおかしくはなさそうだ。
「気をつけた方が良いかもしれないわね。……あと、雪歩の事なんだけど」
「雪歩が、どうかしたの!?」
「大した事じゃないんだけど……腕に傷跡があったわ」
 言われて、真は雪歩の腕を確かめた。
 ……小さいが、確かに傷跡がある。これは注射の痕だろうか?
「何か怪しい薬でも射たれてたら困るだろうし、一度医者に見せた方が良いかもしれないわね。近くに医者が避難してきたはずだし、知り合いを紹介するわ」
「あ、ありがとう、律子」
「まぁ、なんにしても今日の所はゆっくり休んで、明日、日が昇ってからにしましょう。今の所、この辺りに悪魔は出てこないし、安心して眠りなさい」
「うん、ゴメンね、いきなり押しかけて」
「ホントよ、常連じゃなかったら追い返してる所だわ」
 律子の軽口をありがたく受け取り、真も笑顔を返した。

*****

 日が落ちるとすぐに、真は雪歩の傍で寝てしまった。
「よっぽど疲れてたのね。寝つきも良いわ」
 その寝顔を笑顔で眺めながら、律子が零す。
 イオリとミキは、GUMPの中に入っており、今の所部屋の中には真と雪歩、律子と春香しかいない。
 ミキはどうやら野良だったようで、真と契約してからGUMPの中に入っていった。
『契約……なつかしいの。今後ともよろしくなの』
 とかなんとか言っていた様だが、昔誰か、サマナーと一緒にいた事もいるのだろうか。
「ねぇ、律子」
「ん? なに?」
 神妙な顔つきで、春香が律子に声をかけた。
「律子は今回の事件……悪魔の事、どれぐらい知ってるの?」
「何よ、やぶから棒に」
「昼間は律子が言いたくなかったみたいだし、深く訊くのはやめようと思ってたけど、千早ちゃんが今回の件に関わってるなら別よ。教えて、何を知ってるのか」
「……高くつくわよ?」
「わかってるわ」
 情報屋として情報を売る事は当たり前。
 春香が律子から情報を得るのに、当然コストが発生する事は覚悟していた事だ。仕事仲間と言えど、そこはキッチリしておかなくては春香としても気持ち悪い。
「悪魔に関わると、良い目は見れないわよ? それでも聞きたい?」
「今の時点で、既にあんまり良い目も見れてないわよ。律子に拾われてからこっち、こき使われっぱなしだからね」
 元々、情報屋の弟子として律子の店に住み込んでいた春香。
 店の名前が秋月情報局からHRインフォメーションに変わったのも最近の事だ。
 春香が何故情報屋なんて真っ当ではない商売を生業にしようとしたかはわからないが、律子もそれを知るつもりはなかった。
「……まぁ、良いわ。私の知ってる事は全部教えてあげましょう。と言っても、それほど多くはないけどね」
「律子はどこで悪魔の事を知ったの?」
「それを話すには、ちょっと込み入った話になるわね。……元々、私はデビルバスターだったのよ。悪魔の退治屋ね」
「悪魔は昔からいたって言うの?」
 悪魔を認識したのが今日、と言う春香にとって、それはとても驚きだった。
 悪魔とは聞いてる限りだと、かなり大きな力を持っている。
 それが目に見えない形で潜伏していたのだとしたら、それはかなり脅威だ。
「数も少ないし、あまり力の強い者ではなかったけど、キッチリしたサマナーに召喚された大悪魔や、偶に現界に紛れこんでくる奴らもいない事はなかったわ。大昔から葛葉って言う退魔集団が存在していたしね」
「葛葉……。律子はその葛葉って集団に所属していたの?」
「ううん、私はフリー。でも、そこそこ名の通ったバスターだったのよ? その手の世界で秋月律子を知らない人間はいなかったわ」
「……それが、どうして情報屋に?」
「……この話は良いでしょ。今起きてる悪魔の事件について話しましょ」
 唐突に話題を変える律子。それだけ話したくない事だったのだろう。
 春香も律子の気持ちを無視してまで聞きたい事でもなかったので、深くは突っ込まなかった。
「真の話を聞くと、どうやらこの事件の発端はバンナム社長、高木が何らかの思惑で悪魔を大量に召喚した事ね」
「ええ、その召喚には恐らく、プロデューサーやプティーブンも関わっていたんでしょうね」
 イオリがバンナムで召喚された事、そしてその研究でプロデューサーという人間が偉い立場にいたという事は、プロデューサーは間違いない。そして、恐らくプロデューサーなる人物の知り合いであるプティーブンも。
「悪魔はマグネタイトと言うモノを使って、自分の身体を維持しているわ。それはサマナーから供給されたり、悪魔自身がどうにか得るしかないの」
「悪魔が自分で得る……って?」
「マグネタイトって言うのは生物に多く宿ってる物で、とりわけ感情の振り幅がでかい物が多く有してるの。つまり、人間は悪魔の格好の餌って事ね」
「それで悪魔は人間を襲うのね……」
 それを聞けば、先日の食人鬼事件や、公園での殺人事件も納得できる。
「でもその場合、その悪魔はサマナーの命令で人を殺しているか、もしくはサマナーの手を離れた野良が人を襲ってる事になる」
「野良って、ミキとか言う雪だるまもそれだったのよね?」
「ええ、サマナーが使役の権利を放棄し、かつ魔界への送還を行わなかった場合、そう言う野良悪魔になる事があるみたいね。今の所、町に現れているのは下位の悪魔だけだから良いけど、高位の悪魔が野良として現れ始めたら、こんな町なんてすぐになくなるわよ」
 高位の悪魔はそれだけ多くのマグネタイトを消費する。
 故に、その悪魔は自身を保つ為に人間を襲いまくるだろう。
 となれば、町は、いや行く行くは国が、世界が、と言った規模で滅亡の危機を迎える。
「聞けば聞くほど恐ろしいわね……」
「私にはもう、デビルバスターとしての力はほとんどないわ。高位の悪魔が現れても、私にはどうする事も出来ない。だから、そんな事になる前に、この事件を終わらせたいのよ」
「それで、真に無償で情報を与えたわけ?」
「この娘には悪いと思ってるけどね。でも、今の所は真に頼るしかないのよ」
「……まぁ、そこは咎めたりしないわ。私がどうこう言える立場でもないし。……それより、人間が魔法? ってヤツを使えたりする様になるの? 千早ちゃんは爆発を起こした、って言うけど」
 真の話では、社長室の壁と社長室全体を爆破させていた。
 そこに爆薬などはなく、突然爆発が起きたのだと言う。これは魔法なのだろうか?
「私はそんな話、聞いた事ないけど……恐らく、真が見たって言う、彼女の後ろについていた悪魔が起こした爆発なんじゃないかしら? その悪魔を使役しているのだとしたら、爆発を起こせても不思議はないわ」
「じゃあ、千早ちゃんもデビルサマナーに?」
「それも考え難いのよね……。悪魔を使役するには相応の資格が必要よ。技術や知識、魔力やなんかも備えてないと、悪魔は使役できない。真の持ってるGUMPはその手順を簡略化したりする物みたいだけど、あんな物が幾つも出回ってると思うと、恐ろしい気がするし」
「……じゃあどうして……?」
「ペルソナ能力、と言うのがある」
 老人の声が入りこんできた。
 二人は驚いて、声のした部屋の隅を見る。
 そこにはタイジョウロウクンが座っていた。
「た、タイジョウロウクン!」
「だ、誰? 律子の知り合い?」
「うん……なんて言うか、情報提供者よ」
 律子が悪魔に詳しいのは、この老人から情報を得ているかららしい。
 つまり、律子よりも悪魔に詳しいのが、この老人と言う事になろうか。
「年の功、ってところかしら?」
「こ、こら、春香! 失礼でしょ!」
「良いのじゃよ。その娘も運命の輪の上におる。協力してくれるのならば、わしも情報を提供しよう」
「運命の輪?」
「そんな……春香が?」
 良くわからない事を言われ、首を傾げる春香。
 律子はそんな春香を、心配そうに見ていた。
「何かの間違いじゃないんですか?」
「確かだ。受け入れろ、律子」
「……はい」
「なに? なんなの?」
「春香、と言ったか」
 タイジョウロウクンは春香に向き直り、真っ直ぐ目を見て、口を開く。
「これからお前は大変な運命に巻き込まれるだろう。その際、どんな道を選ぼうともお前の勝手だ。だが、どの道を選ぼうとも、後悔はするなよ」
「……何を言ってるんだか、サッパリだわ」
「今はそれでも良い。だが、努々忘れるでないぞ。……ふむペルソナの話だったな」
 話を切り替える様に、タイジョウロウクンは一度咳払いをした。
「ペルソナとは自分の内側に潜む、様々な側面を悪魔や神々の姿として顕現させた物。力を持つ己の一面。この町の異界化に伴い、その能力者が現れたのだろう」
「それを千早ちゃんが使ってた、って事ね。悪魔の力……なの?」
「いや、それは純然たる己の力。ペルソナ自体は悪魔の姿を取る事があるが、それでも本質としては使用者の心の一面だ」
「……難しい話は良くわからないけど、千早ちゃんが悪魔になったり、デビルサマナーになったわけではないのね?」
「そうだ」
「じゃあ、私もそのペルソナって使えるの?」
「難しいだろうな。ペルソナを使うには特殊な素質が必要となる。その千早と言う娘がペルソナを使えるようになったのも、偶然に近いだろう」
 タイジョウロウクンの言葉を聞き、春香は考え込む様に押し黙った。
 何を考えているかはわからないが、あまり良い事ではないだろうな、と律子はなんとなくそう思っていた。
「もう一つ話しておこう、悪魔の力を得た人間の事だ」
「悪魔の力を得た、人間?」
「そうだ。此度の事件の発端である研究、その最中に生まれた外法だ。生きた人間に悪魔の血を混ぜる事で、高濃度のマグネタイトをその身に有し、身体を悪魔に近付けると言う物だ」
「悪魔に近付いたら、どうなるんです?」
「基本的な身体能力の向上、魔法の使用、悪魔との会話、その他、色々な事が可能になるようだな。ただ、悪魔化が進みすぎると、取り戻しの利かぬ事にもなるらしい」
「そんな人間がいるんですか?」
「ほとんどは死んだようだが、極僅か、生き残っている者がいる。気をつけろよ、律子。身体を悪魔に近付けたからと言って、その見かけはほとんど人と変わらん」
「……覚えておきます」
 人間の外見をした、人間以外の者。
 そんな存在が、この町にいるのだとしたら、それはとても恐ろしい事だ。
 注意するのにこした事はない。
「では、わしはそろそろ行くとしよう。春香よ」
「……ん?」
「そなたも我等と道を同じくすると祈っている。ではな」
 そう言って、タイジョウロウクンは煙の様に消えた。
「あの爺さん、何者なの? 悪魔?」
「……さぁ、なんでしょうね」
 タイジョウロウクンは春香の暴言に目をつぶるようだし、律子も何も言わなかった。

*****

 地下にあるHRインフォメーションでは認識し辛いが、朝。
 真はなんとも言えない、妙な感触を覚えて目を覚ます。
「ムグムグ……」
「ん? うわ!!」
 手が、雪歩に咥えられていた。
「ゆ、ゆ、雪歩! なにやってるんだよ、もう!」
「むむ……あ、おはよう、真ちゃん」
「目が覚めた……! 大丈夫、雪歩? どこか具合悪くない?」
「だ、大丈夫だよ。全然平気」
「よかった……」
 昨日、廃ビルに向かう途中からずっと目を覚ましてないらしい雪歩は、ここがHRインフォメーションだと気付いて首を傾げる。
「あれ、戻ってきたんですか? プティーブンさんは?」
「うん……後で話すよ。それより……」
 律子の知り合いであると言う医者の所に行こうとしたのだが、部屋の中に律子と春香の姿は見当たらなかった。
 どうしようか迷っていると、店のドアが開き、律子が帰ってきた。
「あ、やっと目が覚めた? 医者の方には話を通しておいたわよ」
「あ、ありがとう。早いんだね。春香は?」
「春香はちょっとした準備よ。さぁ、目が覚めたならさっさと動いた動いた!」
 律子に追いたてられ、二人は店の外に出た。

「医者に見せたら、一度戻ってきなさい。話があるわ」
「うん、わかった。じゃあ、行こうか、雪歩」
「え? なんでお医者さんに?」
「雪歩の事を調べてもらうんだよ。良いから、行こう」
「そのお医者さんって、男の人じゃないよね? 犬とか飼ってないよね?」
「きっと大丈夫だよ」
 渋る雪歩の背を押しながら、真は医者へと向かった。
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テーマ : 二次創作 - ジャンル : 小説・文学

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