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真・菊地探偵事務所 二章 3

3 出会い

 町をしばらく歩き、とあるビルの前で立ち止まる。
「ここの地下にある情報屋。雪歩も何度か来た事あるだろ?」
「ええと、確かHRインフォメーション、って言うお店だよね」
「そう。取り扱う情報の幅は、この町で一番だ。きっと悪魔についても何か聞けるはず。それに……プティーブンについても調べないとね」
 そう言って、真は雪歩を連れて地下への階段を降りていった。

*****

「思った通り、ロウの連中は出遅れているか」
「ええ、昨今の悪魔騒動に乗じて、軽い布教活動はしているみたいですけど、肝心のメシアが見つからないんじゃ、ロウ連中には期待できませんね」
「……いや、それで良い。カオスとロウがぶつかれば大きな戦争になる。その前にバランスを保つ事が出来れば、我らニュートラルの本懐は果たせる」
「そう上手く行きますかね……」
 ビルの屋上に、律子とタイジョウロウクンがいた。
 町を眺めながらの会談も、もう慣れた物だ。
 高いビルの上からなら、人の流れも良く見える。
「葛葉の連中も、色々ゴタゴタしてるみたいだし、このままころっとカオスに制圧されたりしたら笑えませんよ? 魔人の方はどうなってるんです?」
「全て順調じゃよ。悪魔によるこの町の異界化に伴い、既に覚醒を始めておる。完全に目覚めるのも時間の問題だろう。後進が現れる気分はどうだ?」
「……複雑ですね。一般的な感覚で言えば、それは喜ぶべき事ではないんでしょうね」
「そうとも。お前の後釜が現れると言う事は、即ち大きな災いが近くなっていると言う事。我らニュートラルに取っては、もっとも忌避する事であった」
「でも、そうなってしまった物は仕方ない。可能な限り被害を少なくする様に、尽力するだけ、ですよね。わかってますよ」
 苦笑しながら、律子はタイジョウロウクンに背を向けた。
「そろそろ行きますよ。お客さんみたいですから」
「……丁重に扱えよ。その客人、かなりの上客ぞ」
「え?」
 律子が振り返ると、既にそこには老人の姿はなく、ただ閑散とした屋上の風景が広がっていた。
 タイジョウロウクンの言葉を測りかねていると、屋上のドアが開く。
「あ、こんな所にいた」
 現れたのは頭にリボンをつけた、まだ若い女性だった。
「誰かといたの? 話し声が聞こえたけど」
「聞き間違いじゃない? ただちょっと、風に当たってただけ」
 そう言って律子は現れた女性の問いを誤魔化す。
 彼女にタイジョウロウクンの事は話していない。仕事仲間ではあるが、一般人に話すような事ではないのだ。
「じゃあ早く戻ってきて。お客さんよ」
「はいはい、今行きますよ、春香」
 律子は自分を呼びに来た女性、春香に後に続き、そのまま階段を下っていった。
 タイジョウロウクンの謎のセリフは気にかかるものの、今はしっかりお仕事をしなければ。

*****

「お待たせ」
 春香と一緒に律子が店の中に入ってくる。
 HRインフォメーション。春香と律子が運営する情報屋だ。
 色々な所から仕入れて来る情報の真偽を確かめ、それを必要としている客に売る。それが情報屋の商売だ。
「で、今日はどんな情報が欲しいのかしら、探偵さん?」
「探偵?」
 春香の後ろにいた律子は、部屋の中で先に待っていた客を見る。
 そこには常連で上客、知り合いの探偵娘がいた。
「真じゃない。どうしたのよ?」
「どうしたの、って何がさ?」
 律子は正直驚いていた。
 タイジョウロウクンが言った『上客』と言うのが、この店にとって大きな収入源である常連を示していたとは思えない。
 だが、真は普通の人間だったはずだし、タイジョウロウクンが言うような『上客』にはとても思えなかったのだ。
「ううん、こっちの話」
「……まぁ、別に良いけど」
 適当に誤魔化すと、真も突っ込んで尋ねてくる事はなかった。
「で、ご注文は?」
 春香が催促すると、真は持っていたGUMPを机の上に置いた。
「これについて、わかる事を聞きたい」
「これ……GUMPよね」
 初めに食いついたのは律子だった。
「知ってるの、律子?」
「ええ……ちょっと小耳に挟んだ程度だけど」
「ホント? 幾らなの?」
 早速商談に持ちこむ真。
 どうやら、どうしてもGUMPの情報が欲しいらしい。
 その様子を見て、律子は唸る。これを彼女に話して良いものか。
 一般人であるなら、悪魔の事にはあまり関わらない方が良い。関わってしまえば大なり小なり道を踏み外す事になる。春香にタイジョウロウクンの事を話していないのもその為である。
 真は常連の客であるし、そんな風にはなって欲しくないのだが……と、一つ思い当たる。
「良いわ。これは私からサービスって事にしてあげる」
「ホント!? 助かるよ!」
 春香の責めるような視線を受け流す。それはそうだ。これは商売人としてはいけない事。それも情報屋なんてまともな商売でなければなおさらだ。
 金だけの縁なら簡単だが、そこに貸し借りが発生してしまうと面倒な事になり得る。
 だが、律子には春香にも話せない思惑があった。
 タイジョウロウクンの言葉、真の持ってきたGUMP。もしかしたらこの娘が……。
 だとすれば、律子の知っている情報を教える事は、金では等価とならない。真が行動してくれる事が律子の利に直結する。
「なるほど、確かに上客だわ」
「……何?」
「ううん、こっちの話」
 また適当に誤魔化しつつ、律子は商売を始める。

「そのGUMPって言うのは、バンナムって会社が作った特殊な機械なの」
「バンナムって……この町に本社を置く、あの大企業?」
「そう。まぁ、この町の人間なら知らない人はいないでしょうね」
 町で一番高いビルを持っている会社、それがバンナム。
 オフィス街を見上げれば、どこからでも見えるような高さを持っている。
「真はそのGUMPを弄ったりした?」
「え? あ、うん、ちょっと操作はしたけど……」
「じゃあ、中にどんな物が入ってるか、知ってるわよね?」
 律子に言われ、真は答えに窮する。
 改めて考えてみると、まるで現実味のない出来事だった。あれは夢だったのではないかと思うほど。
 だが、今も真の身体は全体的に痛む。この現実的な痛覚こそが、あの出来事がリアルだったと雄弁に語っていた。
「悪魔……」
「悪魔?」
 真の言葉に、春香が口を挟む。
「悪魔ってもしかして、最近この辺をうろついてる、妙なヤツらが言ってた……」
「春香も知ってるの?」
「知ってるって言うか……最近、町を歩いてると『メシア教』って連中がやたら布教活動してるのよ。そいつらが言うには、最近頻発してる不可思議な事件の原因が悪魔の所為だって言うわけ。まぁ、信じる方がおかしいと思ってたんだけど」
 カワイソウな物を見るような目で、春香は真を見た。
 GUMPも何か、その手の連中に掴まされた適当なオモチャだとでも思ったのだろう。
「う、嘘じゃないよ。悪魔は本当にいるらしいんだ」
「そ、そうです。私達、ちゃんと見ました!」
 真と雪歩が弁解するが、春香の疑惑の視線はその色を増すばかり。
 そこに律子が割って入る。
「まぁまぁ、真。そのGUMPを起動してみなさい。悪魔召喚プログラムが動くはずだから」
「え、大丈夫なのかな……?」
「恐らくね」
 そう言われて、真はGUMPを構える。
 ディスプレイに映し出された項目、悪魔召喚プログラムを選び、その引き金を引く。
 すると、先ほど、事務所の前で起きた出来事を繰り返すかのように、閃光が走り、その後には女の子が現れた。
「……なに、どこここ?」
「ま、また出た」
「また出た、ってアンタね! 人を化け物みたいに言わないでくれる!?」
 女の子は真に掴みかかり、頬やら髪やらを引っ張り上げる。
「いたた、や、やめろって……。は、春香。これで信じたろ?」
「……はぁ、こりゃ驚きだわ」
 春香は女の子を摘み上げ、真から引っぺがす。
「良く出来た人形……いや、ちゃんと生きてるみたいね」
「何よ。見世物じゃないわよ」
「……生意気な羽虫ね。標本にしてやろうかしら?」
「は、はむ……っ! このイオリ様を捕まえて、事もあろうに羽虫!? 良い度胸ね、アンタ! 私が黒焦げにしてあげましょうか!?」
「まぁまぁ、その辺にしておきなさい。貴女、イオリって言うのかしら?」
 また律子が割って入り、春香からイオリを取り上げた。
 自由になったイオリは真の頭の上に着地し、春香を睨みつけながら口を開く。
「ええ、そうよ。私はピクシーのイオリ。しっかり覚えておきなさい、ニンゲンども!」
「ボクも初めて聞いたけど……名前があるんだね」
「あら、言ってなかったかしら?」
「うん、ピクシーって言うのは知ってたけど、悪魔にも名前があるんだ……」
「私は特別なの! それより、なんだってこんな所に呼び出したわけ? 見た感じ、そこの女しか敵はいないみたいだけど、誰を倒せば良いの?」
「あ、いや、そう言うわけじゃなくて……」
「はぁ? じゃあどういうわけよ?」
「貴女に話が聞きたいのよ」
 気圧されている真に代わり、律子が横槍を入れる。
 イオリは律子を見やり、しばらく黙った後、ふんと顔を背ける。
「別に話してあげない事もないけど、アンタ、なんか嫌な匂いがするわ」
「お風呂には入ってるつもりだけど?」
「そう言う意味じゃない! ……ふざけた女ね。まぁ良いわ。話があるならさっさとしてくれる? マグネタイトだって無限じゃないんだから」
 頭の上で不遜な態度を取り続けるイオリに、真はなんとなく苦笑した。

*****

「まず、イオリのお蔭で、悪魔の存在証明にはなったわね」
「まぁ信じるしかないでしょう。実物見せられたんだから」
 仕切り直す律子に、春香は素直に頷いた。
 情報屋としてそれが事実ならしっかり受け入れる様に、既に思考回路は出来あがっている。実物を見せられてまで、頑なに現実を拒否するほど固い頭ではない。
「じゃあGUMPについて、イオリから聞きたいんだけど、貴女は何か知ってるかしら?」
「この銃みたいな機械の事でしょ? それだったら作った本人から聞けば良いじゃない」
「それが今この場にいないから、貴女に訊いてるんだけど?」
「どこにいるかもわからないの?」
「どこの誰かもわからないし、探し様がないわね」
「そんな……じゃあアイツ、どうなったの……」
 不安げに零すイオリ。その様子は、今までの態度とは正反対の様に見えた。
「ボクはその人についても色々訊きたいんだけど、良いかな?」
「……ええ。その人は何処かの会社の研究員で、プロデューサーって呼ばれてたわ。なんか、結構偉い人だったみたい」
「プロデューサー? プティーブンじゃなくて?」
 真はてっきり、差し出し人のプティーブンがGUMPを作ったものだと思っていた。だがそれが違うのだとしたら、そのプロデューサーと言う人間から、まずプティーブンの手に渡り、そこから更に真に届けられたと言う事になる。
「私はプティーブンなんてヤツは知らないけど?」
「じゃあ、一体誰なんだろう?」
「わからない事は、とりあえず横においておきましょう。イオリ、プロデューサーって人について話を続けて」
 律子に言われ、イオリが素直に頷く。
「プロデューサーはどうやら、悪魔を召喚する研究をしてたみたいで、私もその召喚された内の一人だったの。私を召喚した後も、何体も悪魔を召喚してたみたいなんだけど……ある日、プロデューサーじゃない、別のニンゲンが召喚をし始めたのよ」
「別の人間? 誰だかわかる?」
「なんか顔が良く似た子供が二人、大して機械も弄らずに悪魔を召喚してたわ。そう言えば、さっきアンタ達を襲ってたあの子供、アイツらだったかも」
 GUMPを追って、真の事務所の前までやって来た双子。イオリが言うにはあの二人が悪魔召喚を行っていたらしい。
 確かに、召喚された悪魔が召喚士の命令を聞くのなら、インプと言う悪魔が双子の言う事を聞いていたのもわかる。
「私はアイツらに召喚されたわけじゃないし、命令を聞く義理もなかったから逃げ出したんだけど、建物の中は召喚者の手を離れた野良ばっかりでね。食い物を探してピリピリしてる状況だったから、安全な所に取って返したの。そしたら、プロデューサーがいて、そこからGUMPと一緒に逃がしてもらったってわけ」
「イオリもプロデューサーの居場所は知らないのか」
「知ってたらアンタ達なんかに訊かないわよ。でもホント、どこ行ったのかしらね。私を放ってどっか行くなんて、次にあったらキツい電撃かましてやるわ」
「バンナムのプロデューサー、ね……」
 イオリの話を聞いて、律子と春香は自分の記憶を漁る。
 集めた情報の中にその人物の行方の手がかりになりそうな物が無かったか、検索しているのだが……。
「ダメね、私のほうにはちょっと覚えが無いわ。律子は?」
「プロデューサーの方はわからないけど、プティーブンの方なら心当たりがあるわ」
「ホント!?」
 律子の言葉を聞いて、真が一歩前に出る。
 プティーブンから話が聞ければプロデューサーの事もわかるかもしれない。
「どこぞの廃ビルに居座ってる人物が、そう名乗ってるって話を聞いた事があるけど……真はプティーブンとプロデューサーって人を見つけて、どうするつもり?」
「どうするって、そりゃ」
 真はGUMPを手に取り、店を出る準備をしながら、笑顔で言う。
「GUMPを突っ返して、依頼料も払わずにボクに迷惑をかけた分、殴ってやるさ」
「殴ってやるって、アンタね……」
 相手が屈強な大男だったりしたらどうするつもりなのだろうか。
 ……それでも殴りかかりそうな真を見て、律子は何も言う気になれず、ため息をついた。
「まぁ良いけど。アンタに餞別を渡しておくわ」
 そう言って律子は真に一振りの刀を渡した。
「こ、こんな物持ってたらすぐ警察に捕まっちゃうよ!」
「布で覆っておけば竹刀か木刀なんかに見えるから大丈夫でしょ。それに悪魔に襲われた時、戦力がイオリだけじゃ心許ないでしょ?」
 そう言われてみると確かに。
 イオリはとても強そうには見えない。あのインプにすら勝てるかどうか怪しいぐらいだ。
 その実力を見た事は無いが、心許ない。
 だからと言って、何の理由も無く木刀や竹刀を堂々と持ち歩いていた場合でも、しょっぴかれる可能性は高い気がするが。
「じゃあ、一応預かっておくよ」
「大事に使いなさいよ。良い剣なんだから」
「うん」
 律子から刀を受け取り、真と雪歩は店を出ていった。
「……何企んでるの、律子?」
「ん? 何の事かしら?」
 春香の言葉にも適当にすっ呆けるが、春香は『別に』と返し、それ以上訊いてくる事も無かった。

*****

「ねぇ、真ちゃん。やっぱり警察に届けようよ」
「GUMPの事?」
 廃ビルを目指して町を歩いている途中、雪歩が立ち止まった。
「なんか、危ない気がする……これ以上関わったら、ホントに死んじゃうかも」
「大丈夫、引き際は心得てるつもりだよ。本当に危なくなったらすぐに逃げるさ。こっちに何の得もないしね」
「今が引き際だと思うの。ねぇ、やめよう?」
「うーん」
 雪歩の弱気は今に始まった事では無いが、今回は意外と食い下がってくる。
 真としてはプティーブンやプロデューサー、悪魔の事なんかがかなり気がかりなのだが、それでも雪歩の言う通り危ないのも事実だ。
 真が決断しかねていると、白いローブと青い頭巾をかぶった人が近寄ってきた。
「もし、そこの方々」
「……ボクらの事ですか?」
「貴女がた、最近の奇妙な出来事について、不思議に思った事はありませんか? アレは悪魔の仕業なのです」
 良く見ると、話しかけてきた人物の纏っている衣服のそこかしこに、十字架のモチーフがあった。恐らく、宗教勧誘の類だろう。
「ですが心配要りません。もうすぐ私達の前に救世主、メシア様が現れて、全ての悪魔を消し去ってくれるでしょう。今も我等の同志が広場で集会を行っております。よろしければ貴女がたも祈りを捧げてください。そうすれば、必ずメシア様が助けてくださいますよ」
「……それ、どこでやってるんですか?」
「ま、真ちゃん!?」
 いつもは宗教の勧誘なんて軽く突っぱねる真が、珍しく話を聞いていた。
 真は雪歩にだけ聞こえる程度の小さな声で言う。
「ちょっと考える時間をもらえないかな? 別に、宗教に興味があるわけじゃないよ」
 と言うわけで、二人は宗教の集会に出向く事になった。

*****

 集会、と言っても、どこか建物の中でやるような物ではないらしく、適当な駐車場に人が集まっているだけのようだった。とは言え、そこそこ広い駐車場を埋め尽くすほどに人が集まっている。
 駐車場の中央には舞台があり、その上に十字架が立っていた。
 集まってきた人たちはその十字架に向かって何か祈りを捧げている様で、新たに来た真達には目もくれなかった。
「どうぞ、参列下さい。私はもっと多くの同志を集めてまいります」
 そう言って、真たちを誘った人は、また町へと歩き出していった。
「ど、どうするの、真ちゃん」
「まぁ、適当に祈る振りでもしておこう」
 真はその場に立ちながら目を伏せ、胸に手を当てる。
 雪歩もそれに習い、指を組んで目を伏せた。

 祈っている振りをしている間、真はこれからどうするべきか考えていた。
 雪歩の言う通り、これ以上GUMPや悪魔なんかに関わっていたら身が持たないかもしれない。
 インプに食らった魔法のダメージがまだ残っているのだ。さっきよりは随分良くはなっているが、それでも身体中が痛い。
 だが、それを思うたびにあのアミとマミに仕返ししてやりたい気持ちも膨れていくし、単に好奇心から悪魔などについて知りたい、と思う自分もいる。
 まだ命の危機にまで瀕していない現状、自分には危機感が足りていないのかも、と真は自嘲してみた。
「雪歩、やっぱりもうちょっと調べてみよう」
「真ちゃんがそう言うなら……。でも、危なくなったらすぐ逃げようね」
「うん、わかってるよ」
 真は祈りをやめ、雪歩の肩を叩く。
 結論は出たのだ。これ以上ここにいる意味も、妙な宗教に入るつもりもない。すぐに廃ビルに向けて出発しよう。
 ……と、二人がその場を離れようとした時。
「みぃつけたー!!」
 聞き覚えのある、幼い声が背後から聞こえた。
 驚いて振り返ると、そこにはアミとマミ、そしてインプがいた。
「メシア教の集会が開かれてるって聞いて来てみれば、思わぬめっけもんだね!」
「GUMPを頂くのだー!! 行け、インプ!」
 双子の命令を聞き、インプがこちらに飛んで来た。
 その姿を見て、集会に集まってきていた人が騒然とし始める。
「あ、悪魔だ!」
「また悪魔が現れた!」
「め、メシア様、メシア様はどこだ!?」
 軽いパニック状態に陥っている様で、人々はこの場から逃げようとあちこちに走り出し始めた。
「雪歩、ボクの傍から離れないで!」
「う、うん」
 真は雪歩の手をしっかりと握り、人込みに紛れてインプをやり過ごそうと試みる。
 幾らなんでも、この中からたった二人の人間を探し出すのは難しいだろう。
 と、真はそう踏んでいたのだが、しかし。
「インプ、ザンマ!」
 双子は悪魔に命令し、人込みに向けてあの衝撃波を発射する。
 軽めの爆発音と共に、人々が宙に舞った。
「……なっ!?」
「な、なんて事……っ」
 真達からはかけ離れた場所に撃たれたものの、それは二人にとって軽いショックだった。
 自分達がここに居るから、無関係な人が襲われている……!?
「くっ、なんでこんな事……!」
「た、助けないと、真ちゃん!」
「わかってる、でも、こう人が多いと身動きが……」
 衝撃波が放たれた事で、更に混乱を増す集会場。人の流れはますます読み難くなっていた。
「あーもー、面倒臭いなぁ。全部殺しちゃおうよ」
「そーだねー。ロウ側の人間なんて、マミ達にとっては邪魔なだけだし?」
 耳がおかしくなりそうなほどの喧騒の中、何故だかあの双子の声は良く聞こえた。
 全部殺す? それが子供のセリフなのだろうか?
「どうしようもないのか……っ!」
 真が雪歩の手を必死に掴みながら、何も出来ないでいると、インプが第二射を構え始める。その構えが阿鼻叫喚に油を注ぎ、パニックは最高潮に達した。
 だが、その時。
「させません!」
 一発の銃声が響き、インプが射抜かれる。
 流石に悪魔だけあって、それが致命傷には至らなかった様だが、魔法の狙いは明後日の方向へと反れた。
「な、なにがあったの? 大きな音がしたけど……」
「いや、ボクにもちょっと……」
 人込みに紛れている中、真と雪歩には状況が良く把握できない。
 どうやら、アミとマミの背後に誰か現れて、インプを撃ったようなのだが……。
「な、なにやつ!」
「マミ達の邪魔をするとは、不届き千万! 名を名乗れぃ!」
「貴女達に名乗る名前は持ち合わせてません! すぐに立ち去りなさい!」
「むむっ、ねーちゃんは元GUMPの持ち主! ……でも、もうGUMP持ってないならねーちゃんに用はないよ!」
「さっさと消えないと、痛い目見せてやるぞ!」
「貴女達こそ、すぐにその悪魔を連れて消えなさい。でなければ、本気でお相手する事になりますよ」
 現れた誰かと双子は、そのまましばらく睨み合ったが、唐突に双子が退く。
「まぁ、ここで無理する必要もないね」
「メシア教だかなんだか知らないけど、あんなヤツらいつでも蹴散らせるしね」
 そう言った双子は、何か呪文を唱えると、インプと共に姿を消した。
 それと共に集会場は落ち着きを取り戻し始め、事件は一応、収まりが付いた。

*****

「酷い目にあったな……」
「うん……」
 怪我を負った人達の手当てが行われているのを遠目に見ながら、真と雪歩はさっきの出来事を重く受け止めていた。
 自分達がGUMPを持ってこんな所に来たから、あの人たちは怪我を負ってしまった。
「やっぱりダメだよ。そんな物持ってたら、どんどん巻き込まれちゃうよ。早く手放した方が良いよ」
「いや……それじゃあ責任の押し付けだ。さっきの様子を見る限り、あの双子は警察にだって押し入るんじゃないかな? インプは銃で撃たれたぐらいじゃ死なないみたいだし、警察だって悪魔に対しての抵抗力が高いわけでもないと思う」
「でも、私達だって関係ないんだし、警察以上に抵抗力もないんだよ?」
「でも小回りは利く。アイツらから逃げながらでも、プティーブンにこれを突っ返さなきゃ。これ以上、無関係の人は巻き込めないよ」
「うぅ……それはそうだけど」
 今の出来事が、逆に真の決意を固くしていた。
 だが、GUMPをプティーブンに返すだけで事は終わるのだろうか?
 悪魔という存在が現実に現れ始めた今、それだけでは根本的な解決には至らないのではないだろうか?
 流石にこれ以上の事は手に余るな、と考えながらも、真は自分に出来る事を探し始めていた。
「あの、ちょっと良いですか?」
「はい?」
 そんな二人に、一人の女性が声をかけてきた。
 長い髪をたらした、綺麗な女性だった。そして彼女の脇にもう一人、子供がいた。
「なんですか? ボク達に何か?」
「貴女達……もしかして、ガ――」
「うぐぅっ!!」
 女性が何か言いかけた所に、苦しそうな呻き声が響き渡った。
 どうやら手当てを受けていた一人が、突然苦しみ始めたらしい。
「ど、どうしたんでしょう?」
「……恐らく、悪魔の血を飲んでしまったんでしょう」
 雪歩の言葉に、女性が答えていた。
「さっきインプが撃たれた時、何人かが誤ってその血を浴びたり、体内に取りこんだりしてしまったらしいんです」
「悪魔の血……取りこんだら、どうなるんですか?」
「何の準備もないまま取りこんでしまうと、最悪死んでしまうらしいです。……残念ですが、あの人も……」
 女性の言う通り、しばらく呻き声が聞こえていたが、それも聞こえなくなった。
 代わりに誰かのすすり泣きと、祈りを捧げる声が聞こえてきた。
「こんな事になるなんて……。事は急がなければなりません。貴女達、菊地と言う人を知りませんか? この町で探偵をやっている方らしいのですが」
「菊地? ……菊池真ならボクの事だけど」
「……え、そんな……。女の子じゃないですか」
「そうだけど、それがどうかしたんですか?」
「プロデューサーさん、何を考えて……いえ、ここは信じないと」
 女性は独り言をボソボソと零し、真達に向き直る。
「私にもやる事がありますので、用件を手短に言います。まずはこれを」
 女性は真に、何か金属のような、虫を模ったような物を手渡した。
 見方を変えれば、何か装飾品の様に見えなくもないが……。
「……趣味の悪いアクセサリですね」
「それはアクセサリではありません。マガタマと言う、強い力を持ったモノです。……もしかしたら必要になるかもしれませんから、それを持っていてください。菊地真さん、貴女に全てがかかっています。どうか、善き道に進んでくださる様、祈っています」
「あ、ちょっと」
 女性は真達から少し離れ、連れ立っていた子供の手を取った。
「もう少し時が経てば、貴女も色々と理解するでしょう。その時にもう一度会いに来ます。全てを話すのは、それまで待っていてください」
 それだけ言うと、女性と子供は煙の様に消えて行った。
 まるで、元々そこには誰もいなかったかの様に、手品か何かの様に、唐突に消えてしまった二人を見て、真と雪歩は目を疑った。
「な、なんなんだ、今の」
「わ、わからないけど……もしかしたら、あの人達も悪魔だったり……」
「そんな感じはしなかったけど……とりあえず、注意しておいた方が良いかもね」
 言いながら真はこの場を離れる準備を始める。
 それを見て、雪歩も立ちあがって服についた埃を払い始めた。
「すぐに廃ビルに行ってみよう。プティーブンには色々聞かなきゃ」
「……そうだね」
「隙ありぃ!!」
 するとそこに、またも衝撃波が襲ってくる。
 完全に不意打ちを食らった二人は、回避もままならず、地面を転がった。
「ぐっ……雪歩!」
「う……」
 爆心地から見て、全く逆方向に吹っ飛ばされた真と雪歩。
 真が声をかけても、雪歩は反応しない。どうやら気絶している様だ。
「くそっ……」
 真は周りの様子をうかがう。
 離れた場所では、悪魔の襲撃を感知した人々が蜘蛛の子を散らす様に逃げていった。こんな時、動けない人間は放置されてしまう。人間の浅ましさが垣間見える瞬間だ。
 だが、そこに悪魔の姿はない。
「とぉ!」
「再び参上、スーパーアミマミシスターズ!」
 真と雪歩の丁度中間辺りに、双子が空から降ってきた。
「お前等、どこから!?」
「ずっと近くの建物から様子を窺ってたのさ!」
「あのお邪魔虫のねーちゃんが消えるのを、ずっと待ってたんだからね!」
「さぁ、GUMPをよこしてもらおうか!」
 双子はズイと真に近寄る。
 真は律子にもらった刀に手をかけつつ、息を呑んだ。
 双子の傍にいたインプの姿が見えない。
「気付いたみたいだね」
「インプは今、マミ達の後ろにいるねーちゃんを、離れた所から狙っているのだ」
「下手な動きをすると、ボン、だよ」
 抽象的なセリフではあったが、あながちその『ボン』とやらも言い過ぎではない。
 人を軽々と吹き飛ばすほどの衝撃波だ。その直撃を受ければ、雪歩は……。
「さぁ、どうする?」
「早くしないと、ホントにやっちゃうよー?」
「くそっ……」
 こうなってくると、どうしてここまでしてGUMPを守らねばならないのか、疑問にも思えてきた。さっさとGUMPをこの双子に渡してしまえば良いではないか。渡した隙に逃げる事が出来れば、それでいいのではないだろうか。
 ……だが、先程見た二人の行動。無差別に魔法をぶっ放し、無関係の人間すら蟻の様に踏み潰そうとする、非人道的な行動。
 アレを見せられた後になると、GUMPを渡して良いのか、少し考えさせられる。
 GUMPの中にいたピクシー、イオリがどの程度の力を持っているのかわからないが、それも何か悪用されるのではないだろうか?
 となると、この二人にGUMPを渡すのはやはり、やめた方が良いかもしれない。
「もー、早くしないとカウントダウンしちゃうよ!」
「ごー、よーん、さーん」
 だが、渡さなければ雪歩がどうなるか……。
 ここは選択を迷っている暇はない。どちらか、早く決断しなくては。
「にーい、いーち」
「わかった、渡すよ」
 真が選んだのは、雪歩だった。
「それでいいのだよ、人間素直が一番ってね!」
「じゃあ、さっさとこっちに渡してね」
 アミとマミが手を出すのに、真が観念してGUMPを渡そうとした時――
「ブフーラ!」
「ぎゃぁ!!」
 大き目の氷の塊が空から降ってきた。
 地面にぶつかった瞬間、それは粉々に砕け散ってしまったが、どうやらインプが氷漬けにされて落ちてきたらしい。
「な、なにやつ!?」
「えー、また邪魔者ー?」
「真くん、そいつらにGUMPを渡しちゃダメなの!!」
 その後、幾つか鋭い氷柱が天から降り注ぎ、アミとマミの行動の牽制が成される。
 そして、真の目の前に降り立ったのは、一体の雪だるまだった。
「ゆ、雪だるま!? また悪魔か!?」
「ミキは仲魔なの! 安心して!」
「な、仲魔!?」
「うぬぬ、雪だるまの分際で、アミ達の邪魔をしようとは!」
「ムカつくけど、インプもやられちゃったし、ここは一旦撤退!」
 アミとマミは雪だるまと真の隙を付いて雪歩に跳び付き、そのまま三人で何処かへ消えてしまった。
「あ、雪歩!」
「大丈夫なの。アイツらの帰る場所なら、ミキが知ってるの!」
「……さっきから、何者なんだ、お前は?」
「ミキはミキなの。真くんの味方だよ」
 そう言って振り返った雪だるまは、なんとも愛らしい顔で笑った。
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